小さな約束

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「それで、どうやって二人を連れ出すつもりだ?」
 カナードがそう問いかける。
「外に味方がいる」
 ミゲルが即座にこう言ってきた。
「ノーマルスーツはこの艦のものをいただかないとだめだろうが」
 彼はそう続ける。さすがにそれまでは持ち込めなかったのだ、と言う理由は納得できる。
「ならば、まずはデッキの掌握だな」
 カナードは冷静な声音でそう告げた。
「とりあえず、二人のことは守ってやる。掌握に関してはお前たちでやれ」
 キラ達は表に出ない方がいいだろう。カナードは笑いながらそう言う。
「二人がお前たちと親しい存在だとばれても、戦闘に荷担した証拠がなければいくらでもいいわけができるからな」
 そうでなければ、後々厄介なことになる。そう続ければ、二人にも事情がわかったらしい。
「なら、どうしてお前が護衛なんだ?」
 どう見ても自分達より実力が上だろう、とミゲルが問いかけてくる。その言葉にアスランが驚いたように彼へと視線を向けた。
 そんな彼らの行動が二人の実力の差を如実に表していると言っていい。だから、ミゲルの言葉には耳を貸すことにした。もちろん、アスランは無視だ。
「決まっているだろう。俺がサハクの人間だからだ」
 ザフトに直接協力するわけにはいかない。そう続けた。
「それとも、自分達だけではできないというのか? ならば手を貸してやるが」
 使い物にならないと判断させてもらおう。そう言いながら二人の顔を見つめる。
「まさか」
 即座にミゲルが言い返して来た。
「二人でも十分だ。ただ、万全を期したかっただけだ」
 キラとラクスのために、と彼は続ける。
「お前もそれでかまわないな、アスラン」
 さらに隣にいる相手に確認の言葉を投げかけた。
「当然だ」
 アスランがそう言いながらカナードをにらみつけてくる。よほど自分の言動が気に入らないらしい。
「せいぜいがんばるんだな」
 心意気だけはかってやる。だが、実力が伴わなければ意味がない。そう思う。
「……カナードさん……」
 キラが不安そうに彼の服の裾をつかんだ。
「大丈夫だ。こいつらは正規の訓練を積んだ兵士だからな」
 撤退の判断もきちんとできるだろう。そう続ける。
「でもマードックさん達が……」
 どうやらキラの心配は目の前の二人ではなく地球軍の軍人達にあるようだ。
 確かに、連中は殺してしまうには惜しい。いっそ、全員、サハクに引き抜こうかとカナードですら考えるほどだ。  だから、キラの気持ちもわかる。
「そのあたりもそいつらが配慮するだろう」
 言外に『殺すなよ?』と付け加えながら視線を向けた。
「努力だけはする」
 何かを察したのだろう。ミゲルがこう言って頷く。
「だそうだ。よかったな、キラ」
 カナードの言葉にキラは小さく頷く。
「でも、ミゲルもアスランも、無理だけはしないでね?」
 そのせいでけがをされたら悲しい、と続けるのはキラなりの優しさなのだろう。
「何を言っていますの、キラ。アスランはともかく、ミゲルがその程度でけがをするはずはないでしょう?」
 プレッシャーをかけているのか。ラクスが笑みとともにそう言った。
 なるほど。これを称してミナが『侮れない』と言っていたのか。カナードは心の中だけで呟く。
「そうですわよね?」
 その視線の先で、頷く以外許されない者達がため息をついているのが見えた。

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最遊釈厄伝