小さな約束

　　76　　

「ずいぶんと時間がかかりましたわね。どこで迷子になっていたのですか？」
　姿を見せた相手に向かってラクスはそう告げる。
「ラクス……」
「本当のことではありませんか」
　にこやかな表情でそう続ければ、何故かミゲルとアスランが凍り付いた。
「ラクス。せめて最初にお礼を言おうよ」
　キラがため息とともにいさめるように声をかけてくる。
「何を言っているのですか、キラ。彼らがわたくし達を守ってくれるのは当然のことです」
　そう約束していた以上、とラクスは微笑み返した。
「第一、アスランはそうしなければならない理由がありますでしょう？」
　違いますか？　と視線をアスラン達に向ける。
「……キラに関しては否定しませんよ」
　開き直ったようにアスランは言葉を返してくる。
「でも、あなたはご自分の意志でこちらに来たのではありませんか？」
「プラントの人間ですもの。ユニウスセブン追悼団への参加を求められたら拒む訳にはいきませんわ」
「ついでにキラと合流するつもりだったのでは？」
　さすがは同類と言うべきか。彼女の思惑はばれているらしい。
「その必要はありませんでしょう？　サハクが動かれていたのですから」
　彼らであれば、自分達が動くよりも安全にキラを保護していてくれたに決まっている。
「もちろん、あなた方が早々にキラを保護していたというのであれば話は別ですけど」
　自分としてはその方がありがたかった。何よりも、そうしていれば、キラが二度も地球軍に拉致されなくてすんだのではないか。さらにそう付け加える。
「それはそうですけど」
　しかし、こちらにはこちらの都合というものが……とミゲルが呟いていた。
「俺は戦闘中でしたしね」
　キラを保護しにいけば余計に危険だった。彼はそう付け加える。
「……それはそうだったね」
　キラもそれには同意のようだ。
「確かに。共倒れになっていたかもしれんな」
　カナードまでそう言うということは間違いないのだろう。
「……俺だって作戦中だった！　ラスティを見捨てるわけにはいかなかったし……」
　アスランも慌てて口を開く。
「あいつを保護したのだって、偶然だ！」
　さらに彼は叫ぶようにこう言った。
「あいつ？」
　誰のことだ、とカナードが問いかける。
「カガリ・ユラだ」
　顔をしかめながらアスランは言葉を返した。
「ナチュラルだと侮っていたい目に遭ったようだな」
　楽しげにカナードは呟く。
「カガリって強いよね」
　でもアスランより強いとは思わなかった。キラは真顔で告げる。
「だから、安心してオーブに逃げてこい」
「それは困りますわ」
　自分がキラに会えなくなるではないか、とラクスは真顔で口にした。
「それよりも、早々に避難してくれませんか？」
　ミゲルが口を挟んでくる。
「けんかはその後で……隊長を巻き込んでやってください」
　それはもっともな意見ではないか。
「そうですわね。他の方々の弁明も伺いたいですし」
　ふふふフフ、とラクスは笑いを漏らす。
「ラクス……ほどほどにね」
「わかっていますわ」
　戦時中ですから、と続ける彼女に、周囲は深いため息をついた。