小さな約束
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周囲に警報が鳴り響く。
「何事?」
反射的にラミアスが叫ぶ。
「敵襲です!」
即座に言葉が返された。
「敵襲? でも、レーダーには……」
バジルールが信じられないという表情で言葉を綴る。
「ミラージュコロイドね。ブリッツだわ」
こちらの技術が使われるとは、とラミアスはため息をつく。
「でも、あれらを奪われたときに覚悟しておくべきだったわ」
彼女はそう続けた。
「何とかならないのですか?」
いらだちをぶつけるようにバジルールが言葉を投げつける。
「ならないわね。そのように設計したから」
ラミアスはそう言い返す。
「対策を取るにしても、時間が足りないわ」
彼女の言葉にバジルールも反論できないらしい。
「……こうならば、やはりあいつを戦場に……」
代わりに彼女はそう呟いている。
「やめなさい」
即座にラミアスはそう命じた。
「何故ですか?」
意味がわからないと彼女は言外に告げてくる。
「彼らはオーブの民間人です」
今までに何度も口にした言葉をラミアスはまた口にした。
「自分達の命惜しさに、民間人を巻き込んだ愚か者と言われたくないわ」
そして、さらにこう付け加える。
「ですが、ストライクがあればこの窮地を抜け出せるかもしれません!」
「無理よ」
即座に告げられた言葉にバジルールが改めて視線を向けて来た。
「何故、ですか?」
そのままこう問いかけてくる。
「あちらには奪われた四機の他にジンがいるのよ? ストライクの性能がよくても、一機では勝てないわ」
しかも、パイロットは地球軍の軍人ではなくオーブの民間人だ。
それを公表されれば地球軍は一気に悪者の烙印を押される。
「それでもあなたは彼に強要するの?」
自分達の責任を他人に尻ぬぐいさせるのか、と続けた。
「ですが、我々は……」
「それでもよ。他国の人間を踏みつけていいわけじゃないでしょう?」
彼らはあくまでもオーブの人間だ。それを忘れるな、とラミアスは彼女をにらみつける。
「それでも、と言うのであればあなたを拘束するわ」
艦長として、と続けた。
「……あなたは、我々が負けてもよいと?」
「民間人を盾にした卑怯者と言われるよりマシだわ」
バジルールの言葉に負けじとラミアスも言い返す。
「軍人としての最後の矜持までは捨てたくないの」
それだけは、と彼女は続ける。
「ラミアス艦長」
「それにもう、時間がないようだわ」
言葉とともに視線を前方へと移す。そこには銃口をこちらに向けたブリッツの姿があった。