小さな約束

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 不意にハロが妙な反応を見せる。
「ラクス?」
 どうしたのかな、とキラは慌てて彼女を呼んだ。
「ひょっとして、僕、プログラムの修正、失敗した?」
 慌ててキラはそう続けた。
「キラが失敗するはずがありませんわね」
 ラクスがそう言いながら歩み寄ってくる。そして、キラの手元からハロを取り上げた。
「あら。ようやくですのね」
 だが、次の瞬間、彼女の口元に笑みが浮かぶ。
「ラクス?」
「アスランが近くまで来ているという合図ですわ」
 キラの疑問にラクスはこう言い返す。
「ピンクちゃんにはアスランの位置をつかむ機能がありますの」
「……と言うより、ラクスの位置を特定する機能じゃないの?」
 思わずキラはそう口にした。
「そうとも言いますわね」
 さらりとラクスは同意をする。
「ですが、アスランがそばに来ているというのは事実ですわ。ピンクちゃんを通して確認できるのは父かアスランだけですもの」
 シーゲルがここに来ているはずがない。だから、今、自分の位置を確認しようとしているのはアスランだろう。
「どちらにしろ、味方ですわ」
 アスランだけでは頼りないが、彼の隊にはラウとミゲル達もいる。
 だから、大丈夫だろう。
「さらに確実にするために、いっそ、内部からも混乱させましょうか」
 無邪気な声音でザフトの歌姫はそう言った。
「……ラクス……」
 それにどう反応すればいいのだろうか。キラは悩む。
「とりあえず、カナードさんに相談しよう?」
 彼ならば一番いい方法を教えてくれるはずだ。そうでなかったとしても、戦闘経験のない自分達よりは確実な作戦を思いつくだろう。
「そうですわね。わたくし達はただの民間人ですから」
 ただの民間人なのは自分だけではないだろうか。キラはふっとそんなことを考えてしまう。
「しかし、このようなときに戻ってこられないとは……カナード様はどこに行かれたのでしょうか」
 ラクスがそう言って首をかしげる。
「ムウさんの所だと思うけど」
 また誰かに難癖をつけられているのだろうか。キラはそう付け加えた。
「あり得ますわね」
 バジルールの顔を思い出したのだろう。ラクスはかすかに顔をしかめると頷いた。
「あの方も、プラントの人間はみんなザフトの人間だと考えるのはやめてくださればいいのに」
 もう少し柔軟な考え方をしなければいきにくいのではないか。そう付け加える。
「それが地球軍のエリートの教育じゃないのかな?」
 キラはそう口にする。
「ラミアス艦長さんは元々技術畑の人だって言うし、ムウさんはパイロットだから、エリートじゃないって言ってたよ」
 さらにこう続けた。
「だから、和平など考えられないわけですのね」
 ラクスはそう言ってため息をつく。
「馬鹿馬鹿しいですわね」
「全くだ」
 ラクスの言葉にキラも同意をする。
「ともかく、早々に迎えに来て欲しいものですわ」
 遅れた分のイヤミは存分に言わせてもらおう。そう言うラクスを止められる人間がいるものか。
「みんなの胃が無事だといいね」
 キラにはこういうのが精一杯だった。

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