小さな約束

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「ようやく動くようだな」
 ミナがそう呟く。
「我が動いてはならんのか?」
 それにギナがこう問いかけてきた。
「今しばらく待て。サハクが動いていると地球軍に知られるのはまずい」
 いや、セイランか。
「叩きつぶせばよいものを」
 どちらを、とは言わない。だが、ギナのことだ。どちらもと言いたいのだろう。
「下手につぶせばバランスが崩れる」
 その結果、苦しむ者達の大多数は何の摘みもない民間人だ。それだけは避けたい。
「それに、一気につぶしてはつまらぬであろう?」
 特にセイランは、と続けた。
「だから、姉上は怖いのだよ」
 ギナが低い声で笑いながらそう告げる。
「しかし、あれらには恨まれるかもしれぬな」
「何。キラとカガリが無事ならごまかせる」
 あの二人が笑っていれば、あれらは文句を言わない。そう続ける。
「だから、お前はあれらがあの子を無事に助け出せるよう、手助けしてやれ」
「どうせなら、そのままここに連れてくればよかろう」
 カナードもいることだし、とギナは言った。
「そう言うな。キラのあれらに対する信頼を壊すことになるぞ」
 それではキラがかわいそうだろう、とミナは真顔で口にする。
「だから、いましばらくはあきらめるのだな」
 あの子を手元に置くことを、と苦笑とともにはき出す。
「機会は他にもあろう」
 キラを悲しませないですむと告げれば、ギナも苦笑を浮かべた。
「仕方がないの」
 自分達は本当にキラに甘い。ギナはそう告げる。
「あの子が一番、あの人に似ているからの」
 そうでなくても、ある意味、あの子が背負っている枷が一番重いのだ。少しぐらい甘やかしてもかまわないだろう。ミナはそう言う。
「……姉上がそう言うのであれば、心配はいらぬか」
 そう言うとギナは体の向きを変える。
「では、行ってくる」
 この言葉と共に歩き出す。
「任せたぞ」
 自分は根回しをしておく。彼の背にそう声をかける。
「ついでにあの子達の好きなものも用意しておこう。連れてきてもかまわないぞ」
「それは楽しみだな」
 是非、そうさせてもらおう。そう告げると、そのままギナは出て行く。
「さて、ウズミに連絡を取らねばな」
 カガリがいる以上、彼を巻き込まないわけにはいかないだろう。ミナはそう呟く。
「あれにもそろそろ戻って来てもらうべきだろうし」
 こき使える人間は必要だ。そう続けた。
「この馬鹿馬鹿しい戦争も何とかしないといけないだろう」
 子供達の未来のために。
 ミナはそう呟くと視線を移動させる。
「アスハに通信を入れろ。ウズミに話がある」
 そのままこう命じた。即座に、周囲の者達が動き出す。
「さて……うまくセイランの裏をかかないとな」
 そう呟かれた声は本人の耳以外に入らなかった。

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最遊釈厄伝