小さな約束
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「アスランって、妙なところにこだわるよね」
キーボードを叩きながらキラがそう言う。
「本当に。でも、今回はそれが役立ちそうですわ」
ラクスは言葉とともに微笑む。
「でも、何に使うの?」
キラは首をかしげながらそう問いかけた。
「害虫退治ですわ」
にこやかな表情で彼女はそう言う。
「害虫って、何?」
生態系も管理されているプラントではそのような存在は見たこともない。アメノミハシラでも同様だ。だから、キラの知識には未だにそれらは存在していない。
「キラは知らなくていいことです」
表情を崩すことなく、ラクスはそう告げる。
「とりあえず、これからのことですわ」
ラクスの態度から、これ以上聞いても無駄だとわかった。
「人殺しだけはしないでね」
念のために、とキラはこう言っておく。
「もちろんですわ。わたくしは民間人ですもの」
そう言う言葉が信用できないのは、彼女の武勇伝をあれこれと聞いているからだろう。ミゲルですらあきれたそれが嘘だとは思えない。
「きっとだよ?」
キラは再度口にする。
「お約束しますわ」
ここまで行ってくれるのならば大丈夫だろう。キラはそう判断する。
「それよりも、さっさと迎えに来て欲しいものですわね」
自分の忍耐力が切れる前に、と続けられてキラはびくりとした。
「ラクス?」
「今しばらくはおとなしくしておりますわよ。その後は責任持てません、と言うだけです」
自分にも為さねばならないことがあるから、と彼女は付け加えた。
「ラクスは忙しいもんね」
「でも、キラとのお茶の時間でしたら、いつでも確保しますわ」
ラクスの言葉にキラは苦笑を返す。
「じゃ、何か飲む?」
ここでは優雅なお茶会とは行かない。それでもおしゃべりをするには十分だろう。
「そうしましょう」
「じゃ、何か飲み物を……」
「もらってきてやったぞ」
いったいいつの間に帰ってきたのだろうか。そう言いながらカナードは手にしていたボトルをテーブルの上に置く。
「おいたはしていないだろうな?」
その後で、彼は小さな子供に向かって言うような声音で問いかけてくる。
「ハロのプログラム修正ぐらいかな?」
それにキラはこう言い返す。
「……どんな修正だ?」
眉根を寄せながらさらに問いかけてくる。
「音声プログラムを修正して、万が一のときには攻撃できるようにしただけ」
「自衛程度ですわ。現状では警戒しすぎてしすぎることはありません」
キラの言葉にラクスは説明を加えた。
「他にも、薬物関知できるようにさせただけ」
カナードがいれば何も心配はいらない。だが、彼がいないときに運ばれてきた食事に何が入っているかわからないのだ。
「……予想以上だな。まぁ、あの女の指示だろうが」
自分を利用するためになにをしてもかまわないと考えているのはわかっていたが、とカナードはため息をつく。
「お前たちにまで危害を加えようとするなら、そろそろ本気で動き出さないとまずいな」
さて、どうするか。カナードはそう呟く。
「あの方々も早々に迎えに来てくださればよろしいものを」
「そうだな」
そう言いながら回を会わせる二人の姿に、保護者や幼なじみをはじめとする者達の安全を祈りたくなるキラだった。