小さな約束

BACK | NEXT | TOP

  69  



 レーダーにザフトのものではない艦が映し出されている。
「民間船の航路からも外れているな」
 普通、民間のシャトルはこんなデブリの多い空域を航行しない。だから、とアスランは呟く。
「目標の可能性が高いか」
 確認する必要があるな、と呟く。
 本音を言えば、目標だとわかった時点ですぐにでもキラを救いに行きたい。だが、それではキラと――放置したいが――ラクスの命が危険にさらされかねない以上、自重しなければならないだろう。
 しかし、と小さなため息をつく。
 ラクスであれば、自力で何とかしそうな気もする。すでにあの艦を掌握していたとしても、おかしくはない。
 そう考えた瞬間、背筋に悪寒が走る。それを振り切るように小さく頭を横に振った。
「……すぐに戻ってくればいいだけのことだ」
 自分に言い聞かせるようにそう呟く。
 こんな茶番に自分だけで付き合うわけにはいかない。それに、と小さなため息をつく。
「あいつも参加させないとまずいだろうしな」
 ある意味、ラクスと同じくらい厄介な存在を思い出しながら言葉を吐き出す。
 それでも、ラクスよりはわかりやすい。
 からかって遊べると言うことを考えれば、かわいいと言えるかもしれない。
 ただ、ナチュラルのくせに妙に高い身体能力はどう判断すればいいものか。それだけは少し悩む。
「ともかく、確認だ」
 優先順位を間違えてはいけない。余計な事を考える前にやるべきことをやれ。自分を叱咤する。
 そのまま、慎重にイージスを移動させていく。
「デブリや小惑星を利用すれば、それなりの距離まで近づけるか」
 こういうときに、ニコルのブリッツの機能がうらやましくなる。
 だからと言って機体を取り替えるつもりはないが、と心の中だけで付け加えた。
 自分の機体はイージスだ。すでにそう言いきれるくらいこの機体になじんでいる。だから、無茶をしなければ気づかれずに接近することも可能だ。
「キラの安全が最優先だからな」
 このつぶやきとともにアスランはゆっくりとイージスを移動させる。
 そのまま、彼はデブリの影へと消えていった。

 いったいいつ、彼女達の不満が爆発するか。
「厄介な状況だな」
 ムウはため息とともにこう呟く。
「ラミアス大尉も苦慮しておいでです」
 ノイマンがそう報告をしてくる。
「自分が間に入れればいいのですが」
 彼はそう続けた。
「仕方がないな。お前は曹だし、相手は尉官だ」
 下手に口を出せば厄介なことになる。ムウはそう言って彼を慰めた。
「それでも、今回は助かった」
 何とか間に合ったからな、と彼は笑う。
「あと少し、バジルール少尉が彼を怒らせていたら、最悪、アークエンジェルは沈んでいたかもしれん」
 それだけの力がカナードにはある。言外にそう続けた。
「さすがはサハクの秘密兵器、ですね」
 苦笑とともにノイマンはそう言ってくる。
」  カナードのことは有名だと思っていたのだが。少なくとも、前線で戦っていたものはその噂を聞いたことが一度はある。
「だよな。その上、あのお嬢ちゃん達も侮れないし」
 その上、ラクスがくせ者だからな、とムウは心の中だけで呟く。
「ともかく、これからも何かあったら頼む」
 カナードを怒らせるのはまずい。そう告げればノイマンは頷いて見せる。
「じゃ、またな」
 言葉とともにムウは片手を上げて見せた。
「あまりご無理をなさいませんように」
 ノイマンがこう言ってくる。それに苦笑だけを返した。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝