小さな約束

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「隊長! お願いですから、嘘だと言ってください」
 ミゲルが真顔でそう言ってくる。
「彼女が野放しになっているなんて、恐怖などというものではありません」
 さらに付け加えられた言葉はどう判断すればいいのだろうか。
「かといって、こちらの全兵力をラクス嬢の捜索に回すわけにはいかないだろう?」
 キラの存在も重要だ。ラウはそう告げる。
「保護者としては不本意だが、あの子の頭脳にはプラントの発展に繋がる知識が詰め込まれているからね」
 直接軍の仕事はさせていない。だが、キラが作ったシステムの一部はザフトの兵士を守るために重要な役割を担っている。
 それを失うのではなく地球軍に奪われてはどうなるか。
 最高評議会からも、ラクスと同レベルで捜索を続けるようにと指示が出ている。
「そう言うわけだから君たちは引き続き、キラの捜索に当たるように。ラクス嬢より先に見つけるのだね」
 そうすれば、ラクスの怒りを回避できるかもしれない。そう続けた。
「……ラクス様の捜索は……」
「アスラン達に任せる予定だよ」
 さらりと告げる。
「人身御供ですか?」
 即座にミゲルが言い返して来た。
「否定はしないよ」
 アスランはラクスの婚約者だからね、とラウは言う。
「一番適任だと思うが?」
「そうですね」
 自分に被害が及ばなければいいのか。ミゲルはあっさりと頷いて見せる。
「他の連中は?」
「新しい機体の慣熟訓練にはよかろう」
 それが詭弁だとわかっていてもラウはそう告げた。
「地球軍に保護されているとはっきりしているキラの方が厄介なのは事実だからね」
 救出はもちろん、居場所をつかむことに関しても、だ。
「……そう言えば、ラクス様の乗った船の航跡をチェックしてみたのですが……」
 思い出した、と言うようにミゲルが言葉を口にし始める。
「例の新造艦の予想進路と接近しているんですよね」
 救難ポッドの射出方向によっては交差しかねない。さらに彼はそう続けた。
「まさかと思いますけど……」
「……合流している可能性もある訳か……」
 どうしてその可能性に気づかなかったのか。
 いや、考えたくないのかもしれない。
「それは、怖いな」
 キラの口から真実が伝えられているというわけだ。
「別々であれば、口裏を合わせるように言い聞かせられるものを」
 本気でまずい、とため息をつく。
「やはり、アスランを差し出すしかなさそうだね」
 一番近くにいながらキラを保護できなかった責任、と言うことで。そう続ける。
「まぁ、それしかないでしょうね。被害を最小限に収めるためには」
 ミゲルも同意した。
「後は、一刻も早く二人を保護できるよう、努力するだけか」
 それが伸びれば伸びるほどラクスの報復は激しさを増すだろう。
 それでは今後の作戦に大きな支障が出るに決まっている。
「それが難しいのですが」
 やらないわけにはいかないだろう。ミゲルもそう言ってため息をつく。
「とりあえず、皆に発破をかけるか」
 ラクスの恐怖を知っている者達をメインに。ラウはそう呟いていた。

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最遊釈厄伝