小さな約束
66
「……ラクス?」
何故、彼女が目の前にいるのだろうか。それがわからずにキラは軽いパニックに陥る。
「ユニウスセブン追悼団の団長に任命されましたの。それでユニウスセブンに向かっていたのですが、船が襲撃されてしまいまして」
助け出されたらこの船にいた、と彼女は微笑んだ。
「やっぱ、嬢ちゃんの知り合いか」
一緒に来たムウがこう問いかけてくる。
「はい。カレッジで」
「クラスメートですわ。もっとも、キラがまたプラントに来てくれたらの話ですけど」
打ち合わせをしていたわけでもないのに、ラクスはさらりと言葉を口にした。
「それにしても、オーブに向かったはずなのに、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
さらに彼女はこう問いかけてくる。
「何で、と言われても……」
こう言い返しながらキラはムウを見つめた。そうすれば彼は苦笑とともに頷いて見せる。
「乗ってたシャトルが襲われて、地球軍に助けられたから、かな?」
一応、オーブのプラントに下ろしてもらったのだが、今度はザフトとの戦闘に巻き込まれてしまった。そのせいでまた地球軍に保護されることになったのだ、と続ける。
「あらあら。それは困ったことですわね」
何を考えているのか、と彼女の瞳が告げていた。
「後で、ゆっくりとお話しをさせていただかなければい」
そう呟く彼女から圧迫感のようなものを感じる。それは怒りの感情だろうか。自分に向けられていたら、即座に逃げ出したくなるな、とキラは心の中で呟く。
「その前に、プラントに帰らないと」
彼らと顔を合わせるには、ととりあえずキラは言い返す。
「そうですわね。その方法も考えないといけませんわ」
暇つぶしにはちょうどいいだろう、と彼女は頷く。
「ひょっとして、そっちのお嬢ちゃんは下手に触れちゃいけない相手?」
ムウが微妙に頬を引きつらせつつ口を挟んでくる。
「あら。普通に接していただけるなら何もしませんわよ」
地球軍であろうとも、とラクスは言い返す。
「ですから、言動には気を付けてくださいませね」
ふふふ、と笑いを漏らす彼女にムウは首を縦に振ってみせる。
「ミナさまが一目置くわけだ」
カナードはため息混じりにそう呟く。
「それは怖いな」
ムウがいやそうな声音で言葉を綴る。
「女性陣がそこまで強くなったら、男の立つ瀬がなくなるだろう」
ミナは特別としても、と彼はぶつぶつとぼやき始めた。
「あきらめてください。現時点でラクスに勝てる人物は十人といません」
キラはそう告げる。
「その筆頭はキラですわ」
言葉とともにラクスが抱きついてきた。
「そう言うことですので、お二方?」
「……善処する」
カナードはため息とともにそう呟く。
「何とかしよう」
ムウもそう言って頷く。
「お願いしますわ」
ラクスはそう言って微笑みを深める。
「後は、あちらの方々ですわね」
きっちりと反省してもらいましょう。そう呟く彼女に、キラは幼なじみ達が無事であることを祈っていた。