小さな約束

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 どうして、こうも厄介事が増えるのだろうか。そう考えると本気で頭痛がしてくる。
「困ったね、本当に」
 キラのときもそうだったが、今回もまたザフトの勢力圏を抜けたところで民間の船が襲われたらしい。
「あるいは、どこかで監視しているのかもしれないね」
 兵糧攻めにするつもりか。そう続ける。
 それならばまだ対策もある。
 問題は、それ以上に複雑だった。
「あちらももう少し時期を考えてくれればいいものを」
 よりにもよって、その船にラクス・クラインが乗り込んでいたらしい。
「だが、あの方ならそのくらい平然とやるだろうね」
 この空域にはキラがいる。しかも、地球軍の艦艇に、だ。
 それも、一度目はともかく、二度目は出し抜かれたような形になっている。
 後一歩のところで保護し損なったとしれれば何を言われるかわからない。
 だが、それを言われるのが自分でなければそれでいい。
「人身御供を差し出すか」
 さて、誰が適任か。
 そう考えて即座に浮かぶのは二人だ。
 しかし、とラウは続ける。
「ミゲルが使い物にならなくなるのは、いろいろとまずいね」
 そう考えれば、残りは一人だ。
「ふむ。彼にとってもいいお仕置きかな」
 そうしよう、と呟く。
「さて、そうなれば隊を二つに分けないといけないね」
 それはそれで厄介だ。隊の人数は限られているのだ。
「いっそ、二人が合流してくれればいい、と言うのは考えるべきではないのだろうが……」
 そうすれば一石二鳥ではないかそうも言いたくなる。
「とりあえず、ミゲルを呼び出すか」
 自分と同じ程度にはショックを受けてもらおう。ラウはそう呟くと端末へと手を伸ばした。

「……フラガ大尉……」
 あきれたようなバジルールの視線にムウは苦笑を返す。
「救難信号が出ていたからな」
 相手が誰であろうとそれに気づいたら救助するのが昔からの船乗りのルールだ。彼はそう続ける。
「実際、そうやってザフトに救助されて地球に戻って来た地球軍の人間もいるぞ」
 まして、と彼は彼女をにらみつけた。
「あれは民間の船だったしな」
 文句があるのか、と問いかける。
「もちろん」
 即座にバジルールが口を開こうとした。しかし、周囲から向けられる視線に一瞬ひるむ。
 士官学校を出てしばらくは地上勤務だったらしい彼女とは違い、整備陣はずっと宇宙にいた。だから、そのルールが身についている。それを否定しようとしているのを察すれば反感を抱くのは当然だ。
 もっとも、ムウにしてもそれがわかっていてここでそんなセリフを口にしたのだ。
「不本意ですが仕方がないですね」
 それを察したのか。バジルールはため息とともにこう言った。
「とりあえず、中にいる人を出してやりましょうぜ」
 マードックが取りなすようにこう言ってくる。
「そうね。頼んでかまわないかしら」
 ラミアスがこう言って頷く。こうなれば、後の作業は早い。例え物がプラントの救命ポッドでも1分とかからずにロックを解除した。
 しかし、だ。
 ある意味、中にいる人物がが最大の危険物だと誰も気づいていなかった。

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最遊釈厄伝