小さな約束
64
「この艦の居住区には重力があるんだね」
キラがそう呟く。
「モルゲンレーテの最新技術だ。ここまで提供していたとは知らなかったがな」
それにカナードは即座に言い返す。
「カガリがいなくてよかったかもしれん」
この事実を知れば、本気で爆発しそうだ。そうも付け加える。
「……カガリ、無事でしょうか」
キラが小声でこう呟く。
「心配するな」
彼女のことだ。安全な場所にいるに決まっている。カナードはそう言って笑った。
「問題は俺たちの方だが……」
言葉とともにムウを見つめる。
「当面はおとなしくしていてくれ」
何とかするから、と彼は言い返して来た。
「問題なのはバジルール一派だけだ。あいつらは生粋の軍人だからな」
コーディネイターは悪、と言う概念を捨てきれないのだ。彼はそう続ける。
「それもいつものことですね」
ため息混じりにカナードは言い返す。
「とりあえず、バカが手に負えなくなったら最終手段を使います」
にやりと笑いながらそう言った。
「最終手段、ですか?」
何のことかというようにキラが問いかけてくる。ここで真実を教えるのはまずのではないか。と言うよりも、キラは何も知らない方がいいだろう。
「お前の泣き落としだ」
そう判断して、カナードはそう告げる。
「何ですか、それは!」
「いや。意外に有効かもしれないぞ」
真顔でムウが言い返して来た。
「効くわけないじゃないですか!」
キラが真顔で叫ぶ。
「少なくともギナ様や俺には覿面に効くぞ」
カナードは笑いながらそう言う。
「ミナさまだと別方面にぶち切れそうだから怖いが」
彼女であれば、キラがなく原因を排除しに動くに決まっている。そういえば、ムウの頬が引きつった。
「つまり、地球軍の排除と言うことか?」
ミナなら本気でやるな、と彼はため息をつく。
「当然、あいつらもそれは知っているはずなんだがな」
しかし、まだまだ現実味がないのだろう。あるいは、サハクの影響力を甘く見ているのか。
どちらにしろ、後で泣きを見るのは目に見えている。ムウはそう続ける。
「サハクから正式に抗議をすることになるでしょうからね」
カナードもそう言って頷く。
「ともかく、お前らのことは俺の管轄だ。他の誰が何か言ってきても無視していい」
ムウはさらに言葉を続ける。
「それでも無理を言ってくるバカが出たら、俺に連絡してくれ」
あれのこともある、と言われてカナードも納得した。
「俺にあれに乗ってザフトと戦え、と言いたいやつがいると?」
「否定できん」
その言葉にキラの表情が曇る。
「ザフトと戦うのですか?」
カナードを見上げながらこう問いかけてきた。
「断るに決まっているだろう?」
だから、安心しろ。そういえば小さく頷いて見せる。
「オーブはあくまでも中立だ。それはこれからも変わらない」
だが、それをあのバジルールをはじめとする者達が聞き入れてくれるだろうか。
ザフトが攻めてきたときに、自分以外にあれを動かせる人間がいないとなれば強要しようとしてくるだろう。自分だけではなく、可能性があると言ってキラにもやりかねない。
その前に何とかしなければいけないだろう。
カナードはそのための方法をいくつも脳裏に思い浮かべていた。