小さな約束
63
また、彼の顔を見ることになってしまった。
ムウの姿を見た瞬間、キラは心の中でそう呟く。
「……ラミアス大尉。その二人は?」
黒髪の女性が刺すような視線を向けてくる。それを遮るかのようにカナードが体の位置を変えた。
「サハクの関係者だそうよ」
ラミアスと呼ばれた女性がそう言い返している。
「あのままでは危険だったからこちらで保護をしただけ。ついでに残った機体の搬送も頼んだの」
自分では素早い移送は無理だった。だが、カナードの方はテストパイロットだから、と彼女は続ける。
「だからと言って……」
「そこまでにしておけ、バジルール少尉」
ムウが彼女の言葉を封じた。
「オーブの民間人相手に警戒心だけならばともかく、殺気を向けるな」
さらに彼はこう続ける。
「第一、そっちのやつのおかげで全部持って行かれずにすんだんだろう?」
違うのか、と続ければ、バジルールは悔しそうに唇をかんだ。
「第一にして、最初に巻き込んだのは地球軍だからな」
文句を言うな、と彼は締めくくる。
「そういうことで、その二人は俺が預かる。その方が良さそうだな」
少なくとも、自分はコーディネイターに偏見はない。整備陣も偏見を持っている人間は少ないだろう。
「そんなことをして、万が一のことがあれば……」
バジルールがそう反論する。
「これらのデーターなら、モルゲンレーテにある。いつでも見られるものをどうしろと?」
自分の立場なら十分可能だ。カナードはそう言って鼻で笑ってみせる。
「だそうだ」
苦笑とともにムウが言い返す。
「それでかまわないな、ラミアス大尉」
「えぇ。お願いします」
彼女は即座にこう口にする。
「本来ならば私が責任を持つべきなのでしょうが……ブリッジにいるとなれば難しいでしょう」
ブリッジにいる以上、優先すべきなのは艦の存続だ。だから二人に何かあったときにすぐ対処ができない。ラミアスはそう続ける。
「わかっている。それにブリッジにはコーディネイターにあったこともない連中ばかりだろうしな」
それがオーブの人間だとしても、とムウは言い返した。
「せめて、友好国と敵対国の民間人への言動は変えろよ」
言葉とともにムウは視線をバジルールへと向ける。
「オーブのコーディネイターの穏健を受けているくせに、敵愾心を向けるのは本末転倒だろう?」
「ですが」
「いいわけは聞きたくないな。と言うことで、この二人は連れて行くぞ」
バジルールの反論をあっさりと封じるとムウはラミアスの許可を求める。
「お願いします。部屋は士官室を使わせてください」
外から鍵がかかるように、と言うことだろうか。それとも、別の理由があるのか、とキラは心の中だけで呟く。
それが伝わったのか。大丈夫だというようにカナードが肩に手を置いてきた。
「了解。空いているようなら、俺の隣を使わせるぞ」
「大丈夫です」
そう答えたのはバジルールの背後にいた男性だった。
「ありがとうよ、ノイマン」
言葉とともにムウは軽く手を上げる。
「と言うことで、お二人さん。付いてきてくれ。あれについては、その後でと言うことでかまわないな、マードック」
「落ち着いてからでいいでしょう」
四十ぐらいの男性が即座に言葉を返してくる。話の内容から判断して、彼が整備陣のリーダーなのだろう。そして、ムウが今声をかけた人間が比較的コーディネイターにも好意的なのではないか。
「じゃ、後でな」
この言葉とともにムウは歩き出す。キラもカナードに促されながらその後を追いかけた。