小さな約束
62
「善意の押しつけほど迷惑なものはないね」
ラウはそう言ってため息をつく。
「隊長……」
そんな彼に向けてアスランが射るような視線を向けて来た。だが、そのくらいでひるむようなラウではない。
「カナードがいる。それに、サハクもあのこのことは身内だと言い張るだろうからね。地球軍もうかつに手出しはできまい」
何よりも、と心の中で付け加えた。あちらにはムウがいる。あの男が何とかするだろう。
「あの艦が他の地球軍と合流する前に拿捕してしまえばいいだけのことだしね」
できるだろう? とアスラン達に視線を向ける。
「メビウス・ゼロと新型が出てこなければ、ですが」
どちらか片方ならば何とかするが、とミゲルが言葉を返してきた。
「メビウス・ゼロが出てきたときには、私が相手をしよう」
その方がいろいろと都合がいい。
「もっとも、その前にしなければならないことがたくさんあるがね」
あの艦の位置を特定しなければいけないだろう。
それと同じくらい大切なのは、奪取してきた機体を使い物になるようにすることだ。
「君たちはまず、あの機体を使えるようにしたまえ」
アスラン達に視線を向けるとこう告げる。
「はい」
即座に彼らは言葉を返してきた。
「ミゲルは残りたまえ。カガリ嬢も、もう少しお話を聞かせていただきたい」
彼の言葉を合図にイザーク達は動き出す。しかし、アスランはその場にとどまったままだ。
「アスラン・ザラ」
「自分にも聞く権利があるかと思います」
カガリを連れて来たのは自分だ。彼はそう続ける。
「今はそれは関係ない。任務に戻りたまえ」
ラウは感情を押し殺した声でそう告げた。
「君の機体が使い物にならなければ、敵艦の捕縛には参加させない」
それでもいいなら残れ、と言外に続ける。
「……わかりました」
自分自身でキラを救い出しにいけないのはいやだったのだろう。アスランは渋々と言った様子で出て行く。
「困ったものだね、彼も」
その姿がドアの向こうに消えたところでラウはそう呟く。
「あいつのキラへのこだわりは、見ていて異常ですからね」
それでも昔よりはマシになった。ミゲルがそう言い返してくる。
「……キラが言っていた『苦手な奴』というのがあいつか?」
カガリがそう問いかけてきた。
「多分な」
ミゲルが苦笑とともに言い返す。
「なら、ぶん殴っておけばよかったか」
間違えたふりをして、と彼女は言う。
「カガリ。それは後にしなさい」
気持ちはわかるが、とラウは告げる。
「それよりも、あの二人のことが優先だろう?」
そう続けた。
「そうですね」
この言葉にカガリもあっさりと引き下がる。このあたりはしっかりと教育されているようだ。
「当面は大丈夫だと思いますよ。カナードさんが矢面に立つはずです」
カナードはすでにサハクの一員として動いている。逆に、キラはオーブではまだ、成人とは言えない年齢だ。それが隠れ蓑になってくれるはず。カガリはそう言う。
「誰が聞いてもキラはサハクの人間だと答えるはずだしな」
誰がとは言われなくてもわかる。
「いっそ、本当にオーブに移住してくれれば、いろいろと楽なのに」
彼女はそう言ってため息をつく。
「その分、プラントが厄介なことになるから」
即座に突っ込みを入れるミゲルに、微苦笑が浮かんだ。