小さな約束
61
「……カナードさん」
身を隠すと同時に、キラが声をかけてくる。
「カガリなら大丈夫だ。あいつの立場があいつを守る」
それが自分達とは違う。カナードはそう言う。
「それに、あいつはそれなりに戦える。お前よりも強いだろうな」
戦う方法を知らない、と彼は続けた。
「それは……」
「お前はそのままでいい。戦わずにすむなら、それが一番だからな」
キラが何かを言う前にカナードはそう言いきる。
「その方が俺たちが嬉しい」
それに、とさらに彼は言葉を重ねた。
「戦えなくてもできることはあるからな」
自分達を支えるために、と口にする。
「それに……戦い方を知っていれば、お前も戦場に出ることになる。最悪、オーブと敵対する可能性もある」
それでは困る、と言えばキラは一瞬、目を瞬かせた。
「そう、ですね」
「もっとも、その時はさっさとさらいに行くが」
さらりと付け加えれば、キラは目を丸くする。
「カナードさん?」
「俺がやらなくても、ギナ様が動くだろうな」
アメノミハシラに閉じ込めてしまえばいいだけだ。さらにそう付け加える。
「いや、それならば、今でも同じか?」
「……その方がまずくなりません?」
「今ならばいくらでも口実は作れるぞ」
ラウ達が文句をつけられない、と笑う。
「ラウさん達はともかく、ラクスが納得しないと思います」
彼女がなにをしてくれるか。それがわからない。キラはそう続けた。
「ラクス・クラインか」
カナードが言葉とともに目を細めたときだ。こちらに近づいてくる足音に気づく。
「……こちらにも誰か来るな」
それとも、下の通路が通れなかったから迂回してきたのか。
どちらにしろ警戒をした方がいいだろう。
そう判断すると、キラを隠すようにしゃがませる。
「カナードさん」
「さて、どちらだろうな」
ザフトであって欲しいが、と心の中で呟く。そうでなければ、モルゲンレーテか。
一瞬、ギナという可能性を考える。だが、すぐにそれは否定した。彼であれば、このように足音を立てるはずがない。だから、その可能性は早々に手放した。
「厄介事にならなければいいが」
自分一人ならばどうにでもなる。そう考えれば、キラをどこかに隠すしかないだろう。
そう考えながら、周囲を見回す。
「……万が一の時は、あれだな」
キラをあそこに放り込んで、自分が時間を稼ぐ。それしかないだろう。
もちろん、それをキラに悟らせるわけにはいかない。
そんなことをすれば、絶対に抵抗されるに決まっている。
しかし、と小さくため息をつく。そんな頑固なところは誰に似たのだろうか。
全てが終わったらギルバート達に確認してみた方がいいのかもしれない。
その前にこの状況を何とか乗り越えなければ。カナードはそう考えるとそっと銃のグリップに手をかけた。