小さな約束
60
「カガリ!」
いきなり、足元のパネルがカガリごと落下した。だが、この程度なら何とか着地できる。
「大丈夫だ!」
頭の上から降ってきたキラの声にそう言い返す。
「適当なところから上がる。まっすぐに進んでくれ!」
おそらくそれで合流できるはずだ。彼女はそう付け加える。
「わかった。ただし、無理はするな」
それにカナードが言葉を返してきた。
「だめなときにはいつもの手順でエマージェンシーを出して適当に隠れていろ。迎えに行く」
いいな、と彼は続ける。
「はい」
確かに、それが一番だろう。
「ここで下りて、みんなで移動した方がよくないですか?」
だが、キラは納得できないというようにこう言い返してくる。
「別れるとまずいような気がします」
さらにこう付け加えていた。
「カガリなら大丈夫だ。殺しても死なん」
そのセリフは何なのか。カナードにそう突っ込みたい。
「それに、俺が命じられたのはお前の保護だからな。カガリについてはついでだ」
「でも、カガリは女の子でしょう?」
キラはそう言い返している。だが、何故か『カガリがナチュラル』だと言うことでは心配していないらしい。
それはいいことなのだろうか。
「……仕方がないな」
キラの意志が固いと判断したのか。カナードの方が折れたようだ。それとも、キラが実力行使に出ようとしたからかのか。
「カガリでも下りられたとは言え、気を付けろ」
その注意のしかたは何なのだろうか。カガリですらそう思うのだ。キラには尾も切り不本意なのではないか。
「大丈夫です」
「だが、万が一と言うこともあるからな」
即座に反論をするキラをカナードがたしなめている。
「……やっぱり、私に対するのと態度が違うな」
キラに対してはものすごく甘い。自分もキラに甘いから当然と言えば当然だろう。
しかし、何故、と言う気持ちもある。
「下にいるのが地球軍ならばいいが、ザフトだと困るだろうが」
もっとも、カナードのセリフであっさりと解消するあたり、自分も単純なのかもしれない。
確かに、キラがザフトに手を出すのはまずい。裏切り者と言われかねないのだ。
そして、現状ではどちらと遭遇するかわからない。
「過保護にもなるか」
その時にオーブで保護するのは簡単だ。
だが、それはキラに今までの生活を捨てろというのと同じことだ。本人の選択ではない以外に、それを強要できない。
一緒にいたいという気持ちは嘘ではない。だが、今までのようにたまに会えればそれで十分だ。
カガリがそう考えていたときだ。
「……誰か来る?」
背後から足音がしてくる。
「二人とも、こちらに来るな!」
反射的にカガリは叫ぶ。
ナチュラルである自分であれば地球軍相手でも何とかなるだろう。しかし、コーディネイターである二人ではどんな扱いをされるかわからない。
だから、状況がわかるまで上にいてもらった方がいい。
「わかった」
カナードの冷静な声が返ってくる。
敵でなければいいが。そう考えながら、カガリはとりあえず瓦礫の影へと身を隠した。