小さな約束
59
地球軍にキラの存在が気づかれなかったのはいいことなのかもしれない。
だが、とアスランは続ける。
「いったい、誰と一緒にいたんだ?」
キラが警戒していなかった。それどころか相手の行為をいやがっていなかった。
そういえば、キラにはオーブに知り合いがいたはず。
自分の束縛――あの頃はそれが束縛だとはわからなかった――から逃げるためにオーブに言ったときに仲良くなった者達だ。
ひょっとしたら、彼らはその時から付き合っている者達なのかもしれない。
つまり、キラにとっては安全な相手だと言うことになる。
「でも、気に入らない」
キラを守るのは自分でなければいけないのに。まぁ、ラウやミゲルは別枠だが。
しかし、だ。
今はキラを取り戻すよりも先にしなければいけないことがある。
「……仲間を見捨てた飛ばれたら、本気でキラに縁を切られるからな」
それだけは避けなければいけない。
「とりあえず、新型を奪取してラスティを安全な場所に連れて行く」
キラのことはそれから考えよう。艦に戻ればミゲル達に相談もできる。
それが最良の方法のはずだ。
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
「オーブの人間がそばにいると言うことは、キラもそう思われる可能性が高い。地球軍だって、オーブの民間人を無碍に扱うはずがないからな」
これがプラントのコーディネイターであればどうだろうか。連中に利用されるだけだろう。
それに比べれば、現状はまだマシと言える。安全に身柄を確保できる遊歩が与えられたと考えればいい。
それでも割り切れないのは、自分の弱さなのだろうか。
アスランはその問いにふたをする。そして、無理矢理行動を開始した。
「……サハクの方と一緒ですか?」
ラクスはそう問いかける。
「あぁ。とりあえず無事だそうだよ」
パトリックはそう言って頷いて見せた。100%と言わないのは、何があるかまだわからないからではないか。
つまり、オーブも安全ではない、と言うことになる。
だが、サハクの関係者が一緒であれば問題はない、と思う。
「うまく行けば、地球にいるザフト経由で帰ってこられるだろう」
問題はそこに行くまでのルートだ。パトリックはそう続ける。
「海上の覇権争いが激化しているらしい」
潜水艦を使われては避けるのが難しいとか。彼のこの言葉にラクスは首をかしげる。
「潜水艦、ですか?」
「あぁ。ラクスは知らないのだね。海の中を進む宇宙船のようなものだよ」
海の中はレーダーが聞きにくい。だから、どこから攻撃をしてくるのかわからないのだ。シーゲルはそう教えてくれる。
「それよりは、アメノミハシラで保護してもらうのが良さそうだが」
サハクであれば、キラを確実に保護してくれるだろう。そのことはラクスも否定はしない。
「でも、寂しいですわ」
思わず本音を漏らしてしまう。
「キラ君のことを考えるなら、我慢しなさい」
苦笑を浮かべるとシーゲルはそう言った。
「……わかっています」
確かに、キラの安全を確保するには今のままがいいのではないか。
ラクスにもその程度のことはわかる。それでも、会えないのやいやなのだ。
いっそ、自分が迎えに行くべきだろうか。
だが、それではキラに心配をかける。
「……お仕事のついでがあればいいのですが……」
ため息とともにそう呟く。
「ラクス。バカなことをすれば、キラ君の責任が問われるよ?」
シーゲルが即座にこう言ってくる。
「わかっていますわ、お父様。でも、考えるだけは自由でしょう?」
微笑みながらそんな言葉を返す。
そんな彼女に、シーゲルは困ったような視線を向けて来た。