小さな約束

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「……ひどい……」
 目の前に広がる光景に、キラはそう呟く。だが、その光景はすぐに隠された。
「あまり見るな。慣れていないと体調を崩す」
 カナードの冷静な声が耳に届く。
「……それならば、カガリは?」
「あいつは上に立つものだからな。自分の命令で兵士達がどのようなことになるか。最悪の結果も目にしておかなければいけない」
 それが彼女の義務だ。彼はそう告げる。
「とは言っても、あまりここに長居をしても何にもならないな」
 彼はため息とともにキラの体を抱き上げた。
「カナードさん?」
「カガリ! 移動するぞ」
 キラの抗議を無視して彼はカガリに呼びかけている。
「でも!」
「ここにいたからと言って何がわかるわけでもない。それよりも安全な場所からライブラリから情報を確保した方がいい」
 手伝ってやるから、と彼は続けた。
「ハッキングなら、僕も手伝えるよ」
 キラはそう口にする。
「だそうだ」
 そのくらいならばギナも許可を出すだろう、とカナードは笑う。
「……わかりました」
 カガリもここにいても意味はないと判断したのだろう。同意の言葉を口にする。
「急ぐぞ」
 キラの体を抱き上げたまま、彼は歩き出す。
「自分で歩けます!」
 慌ててこう言う。
「いいから、お前は目をつぶっていろ」
 見なくていいものは見るな。低い声でそうささやいてくる。
「ですが……」
 手が空いている方がいいのではないか。キラはそう続ける。
「俺がいないところならばともかく、そばにいてお前にこんな光景を見せた飛ばれれば、俺がミナさまに殺される」
「そうなんですか?」
「ミナさまならやるな」
 カナードの言葉に驚いたのはキラだけだったらしい。カガリも当然と言ったように肯定の言葉を口にしている。
「ミナさまのイメージが変わっていく……」
 有能だが優しい情勢という印章だったのに、とキラは呟く。
「……キラはそのままでいいんじゃないかな?」
 カガリがそう言って首をかしげる。
「お前がそう言っている間は、ミナさまもあえてお前に怖い姿を見せようとはしないだろう。それだけ、私達への被害が減る」
 さらに彼女は言葉を重ねた。
「十分あり得るな」
 カナードもそう言って笑う。
「実際、ギナ様がそうだ」
 キラの前ではかなり柔らかな表情を作っている。カナードがそう言う。
「地球軍はもちろん、オーブ軍にすら恐れられているギナ様が?」
 カガリが目を丸くしている。
「そうなの?」
 やはり信じられない、とキラは呟く。プラントに来るときのギナは、見た目は多少怖いがいつでも穏やかな表情を浮かべているのに、と。
「……まぁ、これ以上突っ込まない方が良さそうだな、いろいろと」
 こんな会話を交わしていたからか。階下で何が起きていたのか、キラは気づかなかった。
 ただ、キャットウォークから通路に進路を変えたときに、一瞬、誰かに自分の名前を呼ばれたような気がした。
「……誰?」
 そう呟いた視線の先には誰の姿もない。
「どうかしたのか?」
「……たぶん、気のせい」
 可能性がないわけではない。だが、それでも彼らがここにいると考えたくなかったのだ。
「あと少しだ」
 カナードなら聞こえていたかもしれない。しかし、彼の雰囲気が質問を許してくれなかった。

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