小さな約束

　　54　　

　カガリが何故ここにいるのか。キラにはわからない。だがカナードも同じだったようだ。ものすごい表情で彼女をにらみつけている。
「今はそれどころではないか」
　だが、すぐに考え直したらしい。彼はこう告げる。
「もっとも、落ち着いたら、きっちりと説明してもらうぞ、カガリ」
　カナードの言葉に、彼女の肩が小さく震えた。
「しかし、俺が合流できたからいいものを……そうでなければ厄介なことになっていたな」
　ため息とともにカナードがそう呟く。
「……私だって、まさか巻き込まれるとは思っていなかった……」
　カガリが肩を落としつつこう言う。
「切羽詰まった状況で情報が飛び込んできたからな。ここに来るのでぎりぎりだったし」
　そこにザフトが襲撃を仕掛けてくると、いったい誰が考えるか。彼女は言外にそう告げる。
「言われてみると、確かに、そうだね」
　確かに、このタイミングで自分とカガリが顔を合わせることはないとキラですら思っていた。
「……誰かの思惑が絡んでいるかもしれないと言うことか」
　ため息とともにカナードがそう呟く。
「調べてみる必要があるな」
　もっとも、と彼は続ける。
「ここから無事に逃げ出す方が先決だ」
　それが第一条件だと言うことをキラも否定しない、カガリも同様らしい。
「何か方策があるのですか？」
「あぁ。モルゲンレーテに行く」
　あそこならば、脱出艇がある。そうでなかったとしても、試作品を利用すればいいだろう。彼はそう言って笑う。
「ひょっとしたら、ギナ様が来ている可能性もあるしな」
「……それは、いやだな」
　即座にカガリがこう言う。
「怒られるから？」
「そういうことだ」
　キラの問いかけに彼女は素直に頷く。
「なら、僕も怒られるかも」
　こう言う状況になってカナードに無かにきてもらったから、とキラは言う。
「何を言っている。元々は連中の仕業だ。お前のせいではない」
　歩き出しながらカナードがそう言った。キラ達は慌ててその後を追いかける。
「第一、それを言うなら、お前を呼び出した俺たちにも責任がある、と言うことになるぞ」
　その考えはなかった。素直にキラは呟く。
「と言うことで、怒られるのはカガリだけだ」
「カナードさん！」
　彼の言葉にカガリが慌てたように声を上げた。
「そう言うときこそ、俺たちに連絡を入れればいいものを。自分で何とかしようとしたお前が悪い」
「そう言われても！」
「お前が動くときはオーブが揺れるときだ。そのくらいの自覚を持て」
　だからこそ、サハクの双子はカガリにカナードに直接連絡を取る方法を教えたのだ。彼はそう続ける。
「……わかっています……でも、今回のことは自分で確かめたかったんです」
　本当にオーブが戦争に荷担しているのかどうかを、とカガリは言い返す。
「それならば余計に、だ。護衛もなしに動くな」
　カナードの言葉にカガリは今度こそ言葉を失う。
「いろいろと制約があるだね」
　何と言えばいいのかわからないまま、キラはそう口にした。
「でも、最近はギルさんもＳＰと一緒に行動しているから、そう言うものなのかな」
　ラクスもそうだし、と心の中だけで付け加える。
「それが嫌いで逃げ出すバカがそこにいるがな」
　即座にカナードがそう言ってきた。
「ギナ様ぐらいの実力があるなら、何も言わないが」
「そんなむちゃくちゃ言わないでください！　ギナ様に勝てる人間がどれだけいるんですか!!」
　カガリの私的ももっともだな、とキラですら思う。
「ミナさまなら勝てるぞ」
　それは比較対象にならないのではないか。そう突っ込みたくなってしまうキラだった。