小さな約束

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 ドアのそばで外の様子をうかがう。
「……どうやら、ここはまだ攻撃されていないようだな」
 だが、混乱しているのは間違いない。
 これ幸いと逃げ出すべきか。それとも……とカナードは考える。
「カナードさん……」
 そんな彼の耳にキラの不安そうな声が届く。
「大丈夫だ。適当なところで逃げ出す」
 任せておけ、と微笑みかける。
「こういうときにどうすればいいかはギナ様からしっかりとたたき込まれている」
 キラを危険にさらすことはない、と言い切った。
「僕のことは自分で何とかできると思うんですけど……」
「今は俺の指示に従え。でないと、後で怖いぞ」
 ミナが、とささやくように付け加える。
「……ミナさま、ですか? ギナ様ではなく」
「本気で怒れば、ミナさまの方が怖い」
 ギナでもかなわないからな、と続ければキラは納得したらしい。
「普段怒らない人の方が怖いというのは本当なんですね」
「まぁ、そういうことだ」
 そう言いながら、カナードはドアのロックを確認する。さすが、と言うべきか。中からは解除できないようにされていた。
 もっとも、このくらいなら開けるのは造作ないことだ。
「だから、俺の指示に従ってくれるな?」
「はい」
 キラは素直に頷いてみせる。
「いい子だ」
 そう言うと、視線をドアに戻す。
「今からロックを解除しておく。でも、まだ出るなよ?」
「わかっています」
 おとなしくしています、とキラは言葉を返してきた。このあたりの物わかりの良さは、やはりラウの教育の成果なのか。
「そうしてくれ」
 キラが勝手な行動を取らないなら、自分の不安は減る。それだけ逃げ出せる可能性が高くなるのだ。
 そんなことを考えながらも手はロックを解除するために動いている。
 地球軍の艦艇は共通のシステムを使っていることが多い。これも同様だ。だから、さほど苦労することなく解除することができた。
 しかし、すぐに通路には出ない。
 外に何がいるのか、まだわからないからだ。
 自分一人であれば何が待っていようと対処できる。しかし、キラはそうではない。
 何よりも、とカナードは心の中で呟く。キラの手だけは汚させてはいけないのだ。
 そのために、キラは一般の人間として育てられている。何があっても軍にだけはかかわらせてはいけないのだ。
 だから、タイミングを誤るわけにはいかない。
 そう考えていたときだ。
 足元が大きく揺れる。
 艦内に警報が鳴り響く。同時に、ドアが勝手に開いた。
「……被弾したか」
 それも、重要な部位にだ。だから、退避しやすいように扉が開放されたのだろう。
「ちょうどいい。このチャンスに逃げ出すぞ」
 視線だけをキラに向けてカナードはそう告げる。
「はい」
 返事とともに小走りに近づいてきた。
「ただし、お前は手を出すな。いいな?」
 ただ、まっすぐに出口に向かうことを考えろ。そう指示を出せば、小さく頷いてみせる。
「行くぞ」
 それを確認してカナードは移動を開始した。

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最遊釈厄伝