小さな約束

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「こっちに意識が集まってくれればいいが」
 ミゲルはそう呟く。
「しかし、キラまでもがここにいたとは……運がいいのか悪いのか」
 少なくとも、自分には悪いか。そう言葉を重ねる。
「全く……後でラクス様に何を言われるか。考えたくないよな」
 キラがそこにいるのに助けられなかったなどと知られれば、彼女の怒りが自分にむくのはわかりきっている。
 いや、それ以前にラウがどのような行動に出るか。それも考えたくない。
 しかし、とすぐに思い直す。
 彼が自分に『キラの救出』を命じていないと言うことは、すでに何か策が講じられていると言うことだろう。
 だから、自分は今、それを考えなくていい。
 そう思い直そうとするが、これがまた難しいのだ。
 自分がザフトを志願した理由の中にキラも含まれているからだろう。
「……こっちをさっさと片付けて様子を見に行くというのは、できるか?」
 後からラウに怒られるのは目に見えている。それでも、彼ならば自分の気持ちを読み取ってくれるはずだ。
 だから、多少の叱咤は甘んじて受け入れよう。
「よし、そうしよう」
 ならば、早々に片付けるしかない。
「アスラン達はうまくやっているんだろうな?」
 自分達はきちんと任務を遂行しても、彼らが失敗しても意味はない。
「……信じるしかないのか」
 だから、まずは目の前のことを片付けよう。その後のことはその後で考えるしかない。
 自分に言い聞かせるとミゲルは目の前の状況を改めて確認する。そして、どう動けばいいのか。頭の中で考えていた。

 厄介な状況になった。
 それ以外、言葉が出てこない。
「うまくあいつらを逃がそうと思っていたのにな」
 カナードがきたから、多少無理をさせても大丈夫だ。それに、きっと近くにギナがいるはず。だから、さっさと逃がそうとムウは考えていた。
 だが、と小さなため息をつく。
 戦闘が始まったのであれば、逃がす方が危ないのではないか。
「ともかく、艦長にあいつらを脱出ポットに入れとくように進言しておくか」
 あれであれば、艦に万が一のことがあっても命だけは助かる。
 まさか、民間人を道連れにしたなどとは艦長も言われたくないだろう。
「そのための時間稼ぎもしておきますか」
 キラ達が逃げ出すための、とムウは呟く。
「問題なのは、この作戦を指揮しているのが誰か、だよな」
 一番いやなパターンでなければいいのだが。そう言ってしまうのは、自分が勝手に地球軍に入ったからだ。
 もちろん、それについてのいいわけはちゃんとある。
 自分以外にその役目ができる人間がいなかったのだ。
 そして、あの混乱時期を逃せば、こちらの情報を隠したままあちらに移住できなかった可能性がある。
 もっとも、完全にごまかせているとは思ってはいない。
「まぁ、そろそろ潮時かもしれないがな」
 地球軍にいるのも、と口の中だけで呟く。そのあたりも相談しなければいけないだろう。
 だが、今はこの攻撃を何とかすることが最優先だ。
 そう考えると、ムウは歩き出す。
 しかし、その動きはすぐに止まった。
「……最悪パターンその一だな」
 やはり出てきたか、とため息をつく。
「俺がわかった、と言うことはあちらも気づいているな」
 何を言われるかわかったものではない。本気でいやそうな表情を作る。
「まぁ、その時はその時だな」
 先に開き直った人間の方が勝つ、と言うのは今までの経験からわかっていることだ。それは今回も当てはまるだろう。
「と言うことで、まじめに仕事するか」
 そう呟くと、改めて移動を開始した。

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最遊釈厄伝