小さな約束
49
見知った顔を見て、キラは少しだけ安心する。
「カナードさん!」
だが、本当にいいのだろうか、と心の中で呟く。
確かにサハクから迎えが来てくれるとは聞いていた。しかし、彼が来てくれるとは思っていなかったのだ。
「元気そうだな、キラ。地球軍にいじめられていないようで何よりだ」
苦笑とともに彼はそう言ってくる。
「いじめられてはいませんが……モバイルを返してくれません」
あれがないと暇をつぶせない。キラはそう言ってため息をつく。
「たぶん、中、フォーマットされちゃっただろうし」
もう一度、自分が満足行くレベルまで構築し直すのは厄介だろうな。キラはそう呟く。
「なるほど。ここの連中ではお前の足元に及ばないと」
予想通りだな、とあっさりとカナードは頷いてみせる。
「だから、バカなことを考えたわけだ」
彼はさらにそう付け加えた。
「一応釘は刺しておいたんだけどな……」
それにムウが苦笑を返す。
「もっとも、目先のことしか見えていないようだが」
焦っているのだろう。ムウのその言葉にカナードも頷く。
「……ひょっとして……」
可能性としては以前から言われていた。しかし、それが現実になったのだろうか。
もしそうならば、すぐにでも逃げ出さないと、とキラは焦る。
自分が彼らを傷つけるような手助けをする訳にはいかないのだ。
「安心しろ、キラ。俺たちがそんなことをさせるわけがないだろう?」
カナードが即座にこう言ってくる。
「そのために俺が来たんだしな」
それに、と彼はさらに言葉を重ねた。
「ギナ様がこの状況を聞いておとなしくしていると思うか?」
その言葉の裏に隠されている意味に気づかないはずがない。キラは小さく首を横に振って見せた。
自分が知っているギナなら無条件で『無理』の一言が脳裏に浮かんでくる。今だって、何か画策しているに決まっているのだ。
そう言うときのギナがかっこいいと思っているから、キラはあえて何も言ったことはない。それがますます彼に気に入られる原因になっているとはキラだけが知らなかったりする。
「だろう? だから、安心しろ」
地球軍の連中がどうなるか。それは知らないが、と彼は続けた。
「わかりました」
それならば自分があまりあれこれとしない方がいいだろう。そう判断をしてキラは小さく頷く。
「……ものすごく怖いな、それは」
逆にムウがため息をついて見せた。
「俺たちは無事にここを出られるのか?」
さらに彼はこう付け加える。
「お前たちの対応次第だろうな」
おとなしくキラと自分を解放してくれれば何もしない。契約に基づいて引き渡すものは引き渡す、とカナードは続ける。
「もっとも、キラの髪の毛一本でも損ねた場合はどうなっても責任とらないがな」
そうなれば、誰が何を言ってもギナの怒りは治まらない。いや、ギナだけではなくミナも動くだろう。
「……考えたくねぇ」
ムウがそうはき出す。
「まぁ、そのあたりで艦長を脅してくるけどな」
そう言うと彼は部屋を出るために体の向きを変える。そのまま歩き出そうとした。
だが、彼が部屋を出るよりも早く、耳障りな音が艦内を支配する。
「こんなところで敵襲だと!」
いったい何故、とムウは呟く。
「お前らはここから出るなよ?」
視線だけ二人に向けるとこう言う。そして、そのまま部屋を飛び出していく。
「……カナードさん……」
いったい何が起きているのか。そう思いながらキラは彼の名を呼ぶ。
「大丈夫だ。俺が一緒にいるだろう?」
そんなキラを落ち着かせるようにカナードが声をかけてくる。
「混乱がひどくなるようなら俺の勝ちだ」
そう付け加える彼に、キラは小さく頷いて見せた。