小さな約束

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 目の前の士官の態度にカナードの機嫌は急降下していた。
「それで? サハクの人間を引き取りに来た俺が、どうして当事者に会えないのか。きちんと説明しろ」
 低い声でそう問いかける。
「貴様の説明次第では、実力行使に出るからな」
 この言葉に、相手はかすかに嫌悪の色を浮かべた。だが、文句は言ってこない。それはきっと、サハクの言動を知っていると言うことだろう。
「……ただ、スパイ容疑がかかっているとしか……」
「その根拠は? あいつがこちらから持ち出したものはないぞ」
 あちらから持ってきたものはあるかもしれないが、と言外に告げる。
「必要なら、正規の手順を通せ」
 サハクの双子がかまわないと判断すれば、キラが持っているデーターを提供することもあるだろう。言外にそう続ける。
「もっとも、あいつが帰ってこなければどうなるか。俺にもわからないがな」
 最悪、サハクは地球軍と敵対関係になるぞ、と脅しておく。
「そう言うわけだから、今すぐ会わせろ。サハクの人間だ。必要なら弁護士も用意しなければならないからな」
 この要求は無視できないはずだぞ、と視線だけで告げる。
「……確認を取る」
 自分だけでは判断できない、と告げると彼は体の向きを変えた。
 それは当然のことだろう、とわかっている。それでも、カナードは男の背中をにらみつけてしまう。
 いったい、キラがなにをしたというのだろうか。
 あの子供には一般的な知識しか与えていない、とギルバートが言っていた。これからもザフトはもちろん、政治の中枢などには近づけないともだ。
 だから、キラが持っているのはあくまでもプラントの民間人が持っているレベルの知識だけと言っていい。しかし、専門分野だけで言えば地球軍のレベルを遙かに超えているかもしれない。
 それが目的か、と心の中だけで呟く。
 モルゲンレーテからの報告では、MS事態は完成している。だが、それにのセルナチュラル用のOSが未完成なのだとか。
 歩かせる程度であれば何とかなるだろう。
 しかし、戦闘となればただの的にしかならないのではないか。それがミナの判断だった。
 それをキラに何とかさせようとしているのかもしれない。
 確かに、あの子供であれば可能だろう。カナードですらそう思うのだ。地球軍のバカがそう考えないはずがない。
 これならば、ギナにきてもらった方がよかったかもしれない、と心の中でため息をつく。
 キラの様子を確認次第、相談するか。だが今は、あの子供の無事を確認するのが先だ。
 その方が後々厄介なことにならないですむのではないか。
 普段ならばその考えは間違っていなかったと言えるだろう。
 だが、何にでも想定外というものはある。
「顔を見るだけならば、と言う条件で許可が出た」
 連れ出すのは禁止だ、と兵士は続けた。
「……わかった。次はもっと上の人間と来る。とりあえず無事を確認させてもらおう」
「わかっている。こちらだ」
 そう言うと、彼は同僚に目配せをする。そして、カナードを先導するように歩き出した。
 もっとも、彼の役目はハッチまでだったらしい。
「ご苦労さん」
 どこか見覚えがあるような相手がそう言って自分を出迎える。
「フラガ大尉!」
「後は俺が引き受ける。お前は持ち場に戻れ」
 男の問いかけには直接答えず彼はそう言い返す。
「……は」
 何か言い返したいことがあるのだろうか。男は思いきり顔に不満だと描きつつも敬礼を返している。
「お前さんはこっちだ」
 ずいぶんと軽いな。そう思いながらもカナードは彼の後をついていく。
「お嬢ちゃんはさっさと帰す予定だったんだがな。セイランから横やりが入ったんだよ」
 悪いなぁ、と付け加えながら、彼は自分が知りたかった情報を与えてくれる。と言うことは、やはり、自分達の関係者なのだろうか。
 だが、地球軍に誰かいると聞いた記憶はない。
 しかし、なにかが引っかかっている。
「あんたは……」
「ムウ・ラ・フラガ。とりあえず、地球軍の大尉だ。今は、な」
 そう言われてようやく彼が誰かを思い出した。同時に、新たな疑問がわき上がってくる。
「……キラをいじめてないだろうな」
「そんな怖いことできるかよ!」
 だから、セイランですら横やりしか入れられなかった。だが、それもサハクの人間が出てきた以上、冤罪で済ませてしまうだろう。
「双子が出てきたら、地球軍はともかく、俺たちは終わりだからな」
 苦笑とともに告げられた言葉に、カナードはあえて言葉を返さなかった。

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最遊釈厄伝