小さな約束
47
相手の艦が着岸したのは確認した。
しかし、どうしたことかそれ以上の動きはない。作業をするべき者達の姿もそこにはなかった。
「……何かトラブルでもあったか?」
アスランはそう呟く。
「さぁな」
即座にディアッカがこう言ってきた。
「それよりも、あれを爆破すればここは使えなくなるんじゃね?」
さらに彼はこう付け加える。
「あれにプラントの民間人が保護されている。その民間人が下船するのを確認するまでは動くな、との指示だ」
できれば、まだ、キラのことは教えたくない。そう考えてアスランは言い返す。
「本国経由でサハクに保護依頼を出してあるそうだ」
さらに言葉を重ねた。
「……重要人物なのか?」
ラスティがすかさず確認の言葉を投げつけてくる。
「……隊長が引き取っている子供の片割れ、と言えばわかるか?」
キラ本人はまだ、プラントではそれほど重要な人物とは思われていない。それでも、キラを必要としている重要人物は多いのだ。
「隊長が引き取っている子供の片割れってことは、キラか?」
ディアッカがそう問いかけてくる。
「あぁ。オーブに向かっている途中で乗っていたシャトルが襲撃されたらしい。脱出後、あの艦に保護されたんだろう」
サハク経由で報告が来た。
「サハクが動いている以上、地球軍も無視はできないとは思うが……」
動きがないと言うことは厄介な状況になっているのではないか。
「どうしますか?」
ニコルがそう問いかけてくる。
「どうするも……作戦中だろう?」
それに従うしかない。イザークはそう口にした。
「ただ、あれには手を出さない。今は、それしかできない」
口惜しいがオーブに任せるしかないな、と彼は続けた。
「確かに」
アスランはそう言って頷く。
「おそらく、あいつのことをオーブの民間人だと錯覚しているはずだしな」
キラ達の話を総合すれば、と言葉を重ねた。
「サハクが動く、と言うことはそういうことだろう」
「そうですね」
不本意だが、とニコルも頷く。
「俺たちが動けば、連中の目はこちらに向くか」
その間にサハクがキラを保護してくれるかもしれない。その可能性に賭けるしかないだろう。
「ともかく、あれを確保する方が先だな」
目の前の輸送船を攻撃できない以上、とアスランは結論を出す。
「仕方がないな」
ため息とともにイザークが同意をする。
「では、移動を?」
「それしかないだろう。できれば、ここに監視を残しておきたいが、そのための人員もないしな」
後はキラの運に任せるしかない。
「ミゲルも知っている。だから、大丈夫だろう」
いや、そう思いたいだけか。
「そうだな」
言葉とともにディアッカがアスランの肩を叩いてくる。
「行くぞ」
後ろ髪を引かれながらもアスランはそう告げた。