小さな約束

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 地球軍の輸送艦が一足先に入港していく。その光景をカガリは忌々しそうに見つめていた。
「……戦争は、自分達だけでしろ」
 そして、口の中だけでそう呟く。
「ナチュラルだとかコーディネイターだとか、そんな区別、馬鹿馬鹿しいとは思わないのか?」
 二つの種族が手を取り合ってこそ、世界は発展できるのだろう。
 いや、そもそもナチュラルとコーディネーターが別々の存在だと考える方がおかしいのではないか。
 もっとも、いくら自分がそう訴えても耳を貸してくれる者は少ない。
「……私に力がないから……」
 自分と同じ年齢だった頃のサハクの双子は、もっと周囲から一目を置かれていたのに、と思う。
 もちろん、彼らと自分を比べてはいけないと言うこともわかっている。彼らがどれだけ努力をしてきたか。ウズミがちゃんと教えてくれたからだ。
 コーディネイターだって、努力しなければ何もできない。
 ナチュラルだって努力すればコーディネイターに勝てる。
 ただそれだけのことだ。
 だから、自分ももっと努力をしなければいけないのだろう。
 あるいは、バカがバカをやっている証拠をつかむか、だ。
「今回のことがあいつらの仕業だとわかれば、少しは状況が変わってくるよな」
 だから、地球軍があちらと接触する前に何とかしたいのに。カガリはそう呟く。
『お待たせいたしました。当機はこれからヘリオポリスへの入港を再開します』
 そんな彼女の耳に客室乗務員の声が届く。
「やっとか」
 カガリは思わずそうはき出す。もっとも、それは目立つことはない。周囲でも同じようなつぶやきがこぼれ落ちていたのだ。
「ともかく、ヘリオポリスに上陸しないと始まらないか」

 今回のことも、いったい誰の差し金なのか調べる必要があるだろう。
 問題は、自分がハッキングその他が苦手だと言うことだ。
「キラ、とまでは言わないが……マユリぐらいは連れてくるべきだったな」
 そうすれば、どれだけデーターを隠そうとしても見つけることは可能だろうに。その中にはきっと、連中がバカをやっている証拠もあるはずだ。
「証拠さえあれば、いくらでも糾弾してやれるのに」
 うまく行けば、連中の勢力をそぐとこともできるだろう。
「焦っても仕方がないか」
 自分の実力以上のことをしようとして失敗する方がまずい。今は地球軍との癒着の証拠を得るだけで我慢しておこう。
 カガリはそう呟くと目を閉じた。

 上官を前に感情を表すべきではないのかもしれない。
 しかし、今の命令は素直に聞き入れることができなかった。
「あのお嬢ちゃんはサハクの関係者ですよ? それも、サハクの双子が溺愛しているらしい」
 わかっているのか、と言外に続ける。
「だが、彼らはまだ、あの子供を我々が保護したことを……」
「知っていますね。すでに、あの空域で我々が民間人を保護したと言うことは報告済みでしょう? そこから、割り出すのは簡単なはずです」
 サハクを甘く見るな、とムウは続けた。
「おそらく、すでに迎えが来ているでしょうな」
 あの一族の情報網は地球軍以上だ。隠そうとしても無駄だろう。
 もっとも、自分がこっそりと情報を流すわけだが、と心の中だけで呟く。
「それでも強行しようとすれば、我々は目的のものを入手できなくなるかと」
 逆に、あれをザフトに渡されるかもしれない。
「それでもかまわないとおっしゃるのでしたら、これ以上何も言いません」
 自分があの子を連れてここを逃げ出すだけだ。
「……そうか……」
 ため息とともに艦長がそうはき出す。
「困ったな」
 つまり、これは艦長の独断ではなく上からの指示と言うことになる。
 本当に厄介なことになった。いったい自分はどうするべきか、とムウは心の中でそう呟いた。

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最遊釈厄伝