小さな約束
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「キラは無事なのでしょうか」
ラクスはそう言うと、そばに立っている相手を見上げる。
「まだ情報が錯綜しておりまして……」
相手はそれにこう言い返してきた。
「早く確認をしてくださいませ。そうでなければ、わたくし、心配で何も手につきませんわ」
歌を歌える気持ちではない。そう続ければ、相手の表情がこわばる。
「ラクス様……」
「キラはわたくしの大切なお友達ですもの」
キラがほめてくれたから、自分は自分の歌を誇ることができた。そして、今はその歌で多くの人々の心を慰めることができている。
だから、万が一キラが失われることになれば、自分はもう二度と歌えなくなるかもしれない。
そう続けた瞬間、相手の表情がこわばった。
「大至急、確認して参ります」
その表情のまま彼はこう告げるときびすを返す。そして、足早に部屋を出て行った。
「このくらい脅かしておけばいいかしら」
彼の足音が聞こえなくなったところで、ラクスはそう呟く。
「そうですね。これで彼らも本気を出すでしょう」
言葉とともにギルバートが姿を現した。
「当然、キラの居場所はわかっておいでですわよね?」
そんな彼に向かってラクスは笑みを浮かべる。
「地球軍の輸送艦に保護されているそうですよ」
平然と彼は言い返して来た。
「目的地がオーブのプラントだそうですからね。サハクの方で保護してもらえるよう、連絡済みです」
あそこならば当面は安全だ。その言葉にラクスも頷く。
「その前に彼らが動くかもしれませんがね」
苦笑とともにギルバートはそう告げる。それはラウ達のことだろう、とラクスにもわかった。
「その時はその時ですわ。重要なのはキラの安全ですもの」
それ以外は些細なことだ。ラクスはそう言うと微笑む。
「あなたらしい」
ギルバートはそう言い返してくる。
「あなた方も同じだと思いますが?」
「否定しません」
あの日、キラに出会ったその時から変わらない気持ちだ。だから、とラクスは続ける。
「わたくしにとって大切なのはキラが笑っていてくれることですから」
そのためならば何でもできる、と告げた。
「いっそ、世界を掌握してしまいましょうか」
まずはプラントからだろうか、とラクスは首をかしげる。
「がんばってください」
それにギルバートは苦笑とともにこう言い返してきた。
「わかった。ヘリオポリスだな」
カナードはそう言い返す。
『とりあえず、あの子を保護している相手は信用していい。だから、余計な手は出すな』
いいな、と念を押すようにミナが言ってきた。
「わかっている。無駄な労力は使わん」
キラの安全が最優先だろう、と確認するように問いかける。
『もちろんだよ。あの子は特別だからね』
いずれ、カナードにももっと詳しく説明をすることになるだろう。だが、それは今ではない、と彼女は続けた。
『秘密を共有する人間は少ない方がいいからね』
少なくとも戦争が終わるまでは、と言われては納得しないわけにはいかない。
同じオーブの人間でも信用しきれないのだ。
いったいどこから重要な情報が漏れているのか。それが特定できていないことも怖い。
「しかたがありません」
だから、こう言い返す。
『いい子だね』
ミナは笑いながらそう言った。
「俺はもう、そう言われる年齢ではありませんが」
『あきらめろ。お前が年下なのは永遠に変わらん』
確かに、と思う。考えてみれば、彼女は双子の弟も子供扱いできるのだ。自分では永遠にかなわないのだろうと納得することにした。