小さな約束

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 ムウが持ってきてくれた食事は、キラには多すぎる。しかし、残すのも申し訳ない。
 どうしようか、と思いながら意味もなくフォークをもてあそぶ。
「何だ? 口に合わなかったか?」
 その様子に気づいたのだろう。ムウがそう問いかけてきた。
「ではなくて……ちょっと、量が多くて……」
 おいしいとは思うのだが、と付け加える。
「あぁ、そういうことか」
 それは気づかなかった、とムウは苦笑を浮かべた。
「軍人なんて、喰ってなんぼだからな。お嬢ちゃんは細いから、ちょっときつかったか」
 言葉とともに彼はキラの前からプレートを取り上げる。
「お嬢ちゃんじゃないです。それに……残すのは申し訳ないし」
「気にするなって。残りは俺が喰ってやるから」
 無駄にはならない、と彼は笑った。
「……お嬢ちゃんと呼ばないでください」
 食べてくれるのは嬉しいけれど、とキラはため息をつく。
「お嬢ちゃんにしておけ。そうすればバカは手を出してこないからな」
 さすがに民間人の女性に無体なことを強いることはないだろう。やろうとした人間がいたとしても周りが止める。
「もっとも、サハクの身内に手を出そうという人間はいないと思うが……」
 あれの二の舞はごめんだろう。そう付け加える彼にキラは『いったい何があったのだろう』と思う。
 しかし、それを問いかけるのははばかられた。ムウの表情が本気で引きつっていることに気づいたのだ。
「ヘリオポリスにつくまでは、ここでおとなしくしていてくれ。いいな?」
 この言葉に、キラは小さく頷く。しかし、部屋に閉じこもっていると言うことはまだしばらく暇な時間を過ごさなければいけないと言うことだ。
 プログラムでも作っていれば暇をつぶせるんだけど、と思ったときにあることを思い出す。
「……そう言えば、僕のモバイル……」
 持ってきたはずなのに、どこに行ったんだろう。
「あぁ、あれな……明日には返せると思う」
 こう言いながらムウが視線を彷徨わせ始める。
「別に、中には特別なものは入っていませんよ?」
「わかっているんだがな。確認しないと、って言って中を見ようとがんばっているらしい。そろそろあきらめると思うが」
 やはり、パスワードを突き止めようとしていたか。しかし、とキラはため息をつく。
「早々にあきらめてください。でないと、全部フォーマットされますから」
 最初から構築し直すのは面倒なんだけど、キラは素直に口にする。
「うへぇ……それはまずいな」
 あきらめてくれ、と即座に返された。
「……何もしないで返すという選択はないわけですね?」
「すまんな。万が一を考えると、うかつなことはできん」
 と言うわけで、パスワードを教えてくれてもかまわないが、と彼は続ける。
「メールまで見られるから、いいです。バックアップはありますし」
 OSさえ入れ直してくれるなら、とキラはため息とともにはき出す。
「実験データーは元々入れていませんから」
 そんな危ないことができるか。そう心の中で付け加える。
「わかった。連中には『ほどほどにしておけ』と言っておく」
 それであきらめるかどうかはわからないが、とムウはため息をつく。
「ただ、一つだけ確認させろ」
「何でしょうか」
「そのシステムはプラント製か?」
「いえ。オリジナルです。僕がギナ様に相談しながら作りました」
 それが何か、と聞き返す。
「いや。プラント製ならほしがる連中がいると言うだけだ」
 それはきっと、暗号解読という意味でだろう。しかし、あれを解読できる人間がどれだけいるのだろうか。
「……下手にいじるとウィルスになりますよ」
 とりあえず、そう注意をしておく。
「その時は連中に責任を取らせるさ」
 彼の言葉をどこまで信じていいものだろう。だが、そう言ったのだから、最後まで責任を取ってもらおう、とキラは考えていた。

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最遊釈厄伝