小さな約束

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「フラガ大尉」
 キラがいる部屋を出ると同時に声がかけられる。そこにいたのは下士官の一人だった。
「中にいるのは、ザフトの?」
 彼らにしてみれば、コーディネイターは民間人だろうと何だろうとザフトの一員らしい。
「いや。どうやらプラントから戻る途中のサハクの関係者らしい」
 オーブはまだ向こうとパイプを持っている。そして、オーブにはコーディネイターも少なくないのだ。その代表格が《サハク》である。
「サハクの?」
「本人曰く、顔見せだったそうだよ」
 もちろん、キラはそんなことは言っていない。だが、この艦のクルーであれば嘘と決めつけることもできないはずだ。
「さすがに双子が行けば厄介なことになる。そう考えて一族の子供を行かせたんだろうよ」
 正確なところはサハクに連絡を取って確認しなければいけないだろうが。そう続ける。
「……サハク、ですか」
「そういうことだ。だから、うかつなことはするなよ?」
 サハクを怒らせることだけは避けたいだろう、と告げれば彼も一瞬おいて頷いてみせる。
「我々のせいでモルゲンレーテの技術が使えなくなったなどとは言われたくありません」
 さすがにそれはまずい、と彼は付け加えた。
「そういうことだ。あぁ、俺は艦長に報告してくる。お前はここで他の連中があのお嬢ちゃんにちょっかい出さないように見張っててくれ」
 もし彼女に何かあれば、連中がぶち切れる。そうなった場合、世界の混乱に拍車がかかるだろう。
 最悪、地球連合とプラントが壊滅、と言う可能性だってある。
 ムウはそう心の中で呟く。
 だが、自分があの子供を保護できたのは幸いかもしれない。
 そして、だ。
 この艦の行く先はオーブのプラントの一つである。うまく行けば、そこからあの子供をサハクに引き渡すことができるかもしれない。
 そうでなかったとしても、オーブの勢力下にいればサハクに連絡を取れるだろう。
 もちろん、百パーセント安全だと言えるわけではない。
 それでも、地球軍にこのまま同行していくよりは安全だろう。
 後は、と大きく息を吐き出す。
 どうやって艦長の許可を得るかだ。
「……何とかするしかねぇだろうな、俺が」
 そう呟くとともに目的の場所で足を止める。そして、端末へと手を伸ばした。

「……地球軍の輸送艦か」
 アマノトリフネに乗り込んでいたミナはその報告に小さく呟く。
「目的地は?」
「ヘリオポリスです」
 即座に言葉が返される。
「と言うことは、あれか」
 確か、秘密裏にモルゲンレーテが依頼を受けていたナチュラル用のMSが完成したらしい。
 もっとも、自分達が受け持ったのは機体だけだ。OSに関しては自力で何とかすると言っていたから、自分達は手を出していない。
 もっとも、とミナは心の中で呟く。地球軍に完成させることができるかどうかと聞かれれば不可能ではないか、としか言いようがない。
 歩かせることまではできるだろう。
 しかし、戦闘で使い物になるかどうか。
「……そう言えば、キラはプログラマーだったな」
 それも最高レベルの、と続ける。
「あの子であれば、可能かもしれん」
 もしかしたら、それが目的なのだろうか。
「可能性はないと言い切れんな」
 厄介だな、とそう呟く。
「あの男がいたことだけが不幸中の幸いか。言ってやりたいことはたくさんあるが、な」
 ともかく、とミナは視線を移動させる。
「カナードに連絡を。ヘリオポリスでキラを保護しろ、とな」
 無事に連れ帰ってくれればいいが。胸の中でざわめいている不安を押し殺しながら、ミナはそう命じていた。

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最遊釈厄伝