小さな約束

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「なにをしにいらっしゃいましたの?」
 目の前の相手に向かってラクスは遠慮なく問いかける。
「……なにを、と言われるとうまくこたえられないのですが……」
 それでも、ラクスならば答えをくれるような気がした。アスランはそう口にする。
「ほかの方でもいいのではありませんか?」
 探るようにラクスはさらに問いかけた。
「ほかの人では、ぼくののぞむ答えしかくれませんから」
 それではだめなのだ。今までの何も変わらない。
 だから、厳しい意見を言ってくれるであろうラクスに会いに来たのだ、とアスランは言う。
「きびしすぎてへこませるかもしれませんが?」
「それもかくごしています」
 たぶん、そうされないとだめなのだ。アスランは覚悟を決めた表情を作るとラクスを見つめてくる。
「そうしないと、ぼくはまた同じことをくりかえします」
 それではキラに嫌われたままだ。アスランはそう続けた。
「……気づかなければよかったものを」
 思わずこう呟いてしまう。
「ラクス・クライン?」
 それが聞こえたのか。彼はすぐに聞き返してくる。
「何でもありませんわ」
 ラクスはそう言って微笑む。
「それで?」
 その表情のままラクスはアスランに次の言葉を促した。
「同じことをくりかえせば、キラがいなくなりそうで……」
 それはいやだ、とアスランは呟く。
「そうですわね。そんなことになったらあなたをうらみますわ、アスラン・ザラ」
 ただでは済まさない、とラクスは笑みを深める。
「ですが、そのかくごがおありなのでしたら、わたくしもえんりょしませんわ」
 今までに飲み込んでいたあれこれを遠慮なく口にさせてもらう。ラクスはそう言いきった。その瞬間、アスランの頬が引きつったような気はするが、そんなもの、かまうものか。
 いっそ、二度とキラに近づかないようにさせてもいいかもしれない。
 ラクスはそう考えると、ゆっくりと口を開いた。

 ラクスを選んだのは、一番厳しい言葉をくれると判断したからだ。そして、それは間違っていなかった。
 だが、それと逃げ出したいという気持ちとは別問題だろう。
 彼女の口から語られる《自分》はどう考えても極悪非道の悪人ではないか。
「……そこまでひどいことをしたきおくはないのですが……」
 とりあえずこう主張しておく。
「それはあなたのしゅかんですわよね? キラにはそう思えなかったようですが」
 そして自分にも、とラクスは言い返して来る。
「あなたのにんしきとキラのそれはちがいます。まずそこからりかいできていますか?」
 受け止め方はそれぞれ違うのだ。そう言われては反論できなくなる。
「キラはもともと、さわがしいのはにがてです。おいかけられるのもですわ」
 それなのに、休み時間ごとに追いかけ回したのは誰か、と彼女は問いかけてくる。
「……ぼく、ですね……」
「それだけではありません。あなたのとりまきたちがキラになにをしたと思います?」
 さらにたたみかけるようにラクスは言葉を重ねた。
「……いえ」
 本当に何をしてくれたのか。あとで確認するしかないのだろうか。
「とりまきをしょうあくできないならまずはそこからはじめられたらいかがですか?」
 自分はそうしている、と彼女は続ける。だから、自分の取り巻きはキラを傷つけないのだとも。
「ごじぶんがなにをしてきたか。そして、とりまきのしょうあく。その二点ができないうちはキラのそばにちかよらないでくださいませ」
 ラクスのこの言葉に反論できないアスランだった。

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最遊釈厄伝