小さな約束

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 物音に視線を向ければ、カガリが大きく目を見開いたまま凍り付いている。
「カガリ……言いたいことがあるなら、さっさと言え」
 カナードはため息とともにそう問いかけた。
「ほんとうにカナード兄さん?」
 今、笑ってたよね……と彼女は続ける。いや、それだけではない。初めて見た、とさらに付け加えてくれた。
「お前が見ていないだけだ」
 ため息とともにそう言い返す。
「それよりも、自己紹介は?」
 カナードはそう続ける。
「……あっ」
「彼らはミナ様とギナ様のお客様だ。そう考えれば、どちらから自己紹介をしなければいけないか。わかるな?」
 さらに言葉を重ねれば、彼女は小さく頷く。
「カガリ・ユラ・アスハだ。ウズミ・ナラ・アスハの長子になる」
 この言葉に、キラが首をかしげた。
「アスハのおひめさま?」
 そのまま確認するように口にする。
「そうだ。でも、おまえの方がおひめさまだな」
 自分よりも色が白いし、とカガリが言い返す。
「……キラ、です。キラ・クルーゼ」
「レイ・ザ・バレルです」
 二人は口々にそう言うとぺこりと頭を下げた。
「お前たちとはなかよくなれそうだ」
 その仕草を見た瞬間、カガリの中でそう言う結論に達したらしい。このあたりは、やはりあの双子の影響なのか。それとも、と思う。
「なかよくしてくれれば、うれしいです」
 キラはそう言って微笑む。その表情がとてもかわいらしいな、とカナードは心の中で付け加えた。
 カガリもそれを見習ってくれればいいのだが。きっと、それをウズミも期待しているのではないか、と判断する。
 もちろん、それ以外の理由があることも知っていた。だが、それをこの二人に話すことは許されていない。少なくとも、今は……だ。
 だが、いずれ知らせなければいけないだろう。その前に、二人の絆が強いものになっていればいい。
「もちろんだ!」
 カガリはそう言って笑う。
「じゃ、まずはなにをする?」
 そう言いながら彼女はキラに近づいてきた。そのまま、その手を握りしめる。
「……あの……」
 どうしようかというようにキラはカナードを見上げてきた。
「この部屋の中でだぞ。さすがに、今日は危険だからな」
 ウズミ達だけではなくジャンク屋や傭兵ギルドの者達も来る。子供達がうろついていればどうなるかわからない。
「え〜〜っ! せまいだろう?」
「じゅうぶんひろいです」
 カガリの言葉にキラがそう反論する。
「ひろいです」
 レイもそう言って頷く。
「……せまいですよね?」
 判定を求めるようにカガリがカナードを見つめてきた。
「地球でならせまいが、プラントでは広い方だぞ」
 スペースが限られているからな、とカナードは言う。
「まぁ、アメノミハシラは特に狭いが」
 プラントとしても、と彼は続ける。
「……ずいぶんとちがうんだな」
 知らなかった、とカガリは呟く。
「ならば、これから知っていけばいいだけのことだ」
 まずは話をしてみろ。カナードの言葉に彼女は頷いて見せた。

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