小さな約束
32
「ギナさま、ぼくはおにんぎょうじゃありません」
下ろしてください、とキラは主張する。
「よいではないか」
そう言うと、彼はキラの体を自分の膝の上に下ろす。
「今日まで会えなかったのだぞ?」
滅多に会えないのだから、いいではないか。彼はそう言って笑う。
「でも……」
「誰も気にしておらぬ。それに、私の膝の上に女性が乗っている方が問題だからの」
そう言う問題なのだろうか。
そもそも、どうして女性がギナの膝の上に座るのか、とキラは首をかしげる。
「幼子に余計な知恵をつけるでない!」
言葉とともにミナが彼の頭に拳を落とした。
「……別に変なことは言っておらぬであろう?」
女性をうかつに膝に載せてはセクハラと言われかねない。だから、問題だと言っている。ギナはそう告げた。
「だが、今のキラが知らずともよい知識であろう?」
この言葉とともに、何故かキラの体はミナの腕の中に移動していた。
「姉上……」
「報告書を早々に仕上げるのだな。それまではお預けだ」
キラを可愛がりたければさっさと仕事を終わらせろ、と彼女は言いたいらしい。
「ミナさま……」
そんな彼女に向かってレイが声をかける。
「キラがなきそうです」
おろしてください、と彼は続けた。
「……驚かせたか?」
それにミナは驚いたようにキラの顔を見下ろしてくる。
「すこし」
キラは素直に言葉を返す。
「悪かったの。ギナがはしゃぎすぎたからか」
もったいないが仕方がない、と呟くと彼女はキラを解放する。同時に、レイが自分の腕の中に囲い込んでくれた。
「レイ」
「キラをまもるのは、おれのぎむです」
当然のことだ、と彼は言う。
「ここにはぼくをきずつける人はだれもいないよ?」
本当にびっくりしただけだ、とキラは言い返す。
「ミナさまにまでかるがるとだきあげられるって、ぼくってそんなにかるいのかな?」
それはまずいのではないか、と首をかしげた。
「いまのままでいいです」
即座にレイが言い返して来る。
「たしかに。重くなられると、おれがだきあげられない」
何故かカナードがそう言ってきた。
「お前が大きくなればいいだけのことだろう?」
ミナがそう言って笑う。
「そうですね」
成長期になりますから、とカナードは頷く。
「レイもそうなるとは思うが……キラにはきてほしくないな」
このままでいて欲しい、と真顔で彼は続ける。
「ぼくだって大きくなりたいです!」
キラはそう主張して見せた。
「なら、おれがだきかかえられる大きさでいてくれ」
間違ってもギナのように大きくなるな、とカナードは付け加える。
「それはおれもいやです!」
レイもそう言った。
「大丈夫だろう。骨格的にキラはあまり大きくならないと思うよ 」
ギルバートのこの言葉にキラは肩を落とす。
「せめて、ミナさまぐらいには大きくなりたいです」
そのまま、こう主張した。一瞬、周囲が静まりかえる。だが、すぐに室内に笑い声が満ちた。