小さな約束
31
「はは上……そうだんしたいことがあります」
そう言ってアスランはレノアの顔を見上げる。
「何かしら?」
珍しいわね、と言いながら、彼女は視線を向けてくれた。
「ぼくはうっとうしいのでしょうか」
そう言われて嫌われてしまいました、と素直に続ける。
「あら、よかったわね」
だが、レノアの口から出たのは予想外のセリフだった。
「はは上?」
何が『よかった』というのだろうか。自分には悪い結果だとしか思えない。
「だって、そうでしょう? 今までのあなたの《お友達》では、あなたが何をしても我慢してしまうしかなかったわ。あなたが私とパトリックのこどもだから」
それは決してアスラン自身を見てのことではないのだ、と母は続ける。
「でも、その子はあなたを見ているのでしょう? それについては『よかった』としかいえないわ」
そして、と彼女はさらに言葉を重ねる。
「あなたは、自分が悪いのではないか、と初めて考えてる。それはあなたのためにとってもいいことよ」
自分が今までどれだけ傲慢だったのかを認識することも、と母は追い打ちをかけてくれた。
「……はは上……」
「まずはたくさん考えなさい。それでも答えを見つけられなかったなら、その時は一緒に考えてあげるわ」
悩めるのは今だけだ。だから、思い切り悩みなさい。母はそう続ける。
「はい、はは上」
実を言えば、レノアの言葉に納得できているわけではない。それでも、今のままではキラに嫌われたままだと言うこともわかっている。
だから、考えてみよう。
アスランは心の中でそう呟いてみた。
メールボックスを確認すれば、キラからのメールが届いていた。
「まぁ。きれいなお花」
添付されていた写真を開けば、そこには満開の花とその間で微笑んでいるキラの姿がある。
「よかったですわ」
どうやら、プラントを離れたことがキラにとってはよかったらしい。
「少しさびしいですけど、しかたがありませんわね」
あのままではキラは押しつぶされていただろう。それは自分の望むところではない。
「それもこれも、あのバカがわるいのですわ」
彼さえ余計な事をしなければ、キラはプラントにいてくれただろう。
「もうじき、わたくしのたんじょう日なのに」
一緒にキラに祝ってもらう予定だったのだ。それなのに、とため息をつく。
「それでも、さりげなくメールにかけばおいわいのことばぐらいはいただけるでしょうか」
そう付け加える。
「わたくしもむこうに行ければ一ばんよいのですが」
それは難しいのではないか。せめて、ギルバートがキラ達を連れて行ったような口実と向こうからの許可がなければ無理だろう。
「おとうさまにそうだんしましょう」
直接行くことはできなくてもキラに連絡を取る方法があるのではないか。表向きないとしても、父ならば方法を持っているような気がする。
メールを送るにしても、一応許可を取っておくべきだろう。
「早くおとなになりたいですわ」
そうすればもっと、自分だけでできることが増えるはずだ。キラを守るための力も手にすることができる。
「キラにはかわってほしくありませんもの」
だから、自分が守るのだ。
ラクスはそう考えながら立ち上がる。
「おとうさまがなんじにおもどりになるのか、かくにんしてこないといけませんわね」
執事ならば知っているだろう。そう判断すると、彼女は歩き出した。