小さな約束
30
とりあえず、とカナードが案内してくれたのは植物が植えられている部屋だった。
「きれい」
そこは大まかに四つの区画に別れていて、それぞれ、季節の花が咲いている。
「ワンブロックずつ、季節がずれている。だから、好きな季節の花を見られるぞ」
カナードはそう言って笑う。
「でも、さくら、ないですよね?」
やっぱり時期がずれてしまったのだろうか。そう思いながらキラが言い返す。
「桜はこっちだ」
カナードはそう言うと歩き出す。
四つの区画を分けている通路をまっすぐに外周方向へと進んでいく。
そうすれば、半透明の扉へとたどり着いた。カナードはためらうことなくその先へと進む。
「うわぁ!」
視界を覆うほどの桜の花が壁に沿って植えられている。反対側は宇宙空間がシールド越しに眺めることができた。そのコントラストにキラは言葉が出てこない。
「これは……すごいですね」
レイもそう言って目の前の光景を見つめている。
「ギナ様のけっさくだ」
カナードはそう言って笑った。
「めずらしく周囲の人間をよろこばせることをしてくれた、とミナ様もおっしゃっていたな」
そうなのか、とキラは首をかしげる。
「でも、このこうけいはとてもすてきです」
とりあえず、素直な感想を口にしてみた。
「それは否定しない」
カナードもそう言って笑う。
「やはり、ここもブロックごとに季節が変えられている。だから、一年中、どこかで桜が咲いているぞ」
本当に無駄にこって、とカナードは付け加えた。
「まぁ、お前が喜んでいるならいいのか」
本人に言えばうるさいが、とはき出す。
「だめなんですか?」
「ななめ上にまい上がる、とミナさまが言っている」
そうなればいろいろと厄介だ。最悪、自分達以外の人間も巻き込みかねない。カナードはそう続ける。
「ギナさまって、そうなの?」
「ざんねんだがな」
才能だけは有り余るくらいあるのに、とカナードはため息をつく。
「……でも、あれよりはましです」
不意にレイが口を挟んでくる。
「あれ?」
カナードが即座に聞き返す。
「キラにまとわりついているばかです」
人の話を自分の都合のいいように変換する、ものすごい馬鹿です。レイはそう付け加えた。
「それって、アスランのこと?」
「ほかにだれがいますか?」
キラの言葉にレイはそう言いきる。
「すくなくとも、おれはあいついがいにきいたことがありません」
キラの口から、と彼は言葉を重ねた。
「なるほど。今回、お前も着いてきたのはそれが理由か」
馬鹿はどこにでも出るな、とカナードはため息をつく。
「それなら、好きなだけここにいろ。勉強もそれなりに手配できる」
むしろ、そうなれば嬉しい。彼はそう言ってキラの髪をなでた。
「それに、もうじき、あいつも来るしな」
「……あいつ、ですか?」
誰だろう、とキラは首をかしげる。
「会えばわかる」
それにカナードはこう言って笑った。