小さな約束
29
アメノミハシラはプラントに比べると半分の大きさもない。しかも、その大半が軌道エレベーターと宇宙港の施設で、居住区はさらに狭い。
だが、初期のプラントはここよりもさらに狭かったのだろう。
それでも、オーブの最新の技術が使われているからか。居住性は比べものにならないくらいいい。
「ここが客間だ。適当に使え」
そう言われてキラはミナに抱かれたまま周囲を見回す。リビングとおぼしき部屋の周囲にいくつかのドアが見える。そのどれかが寝室につながっているのだろう。
「シャワーはいつでも使える。寝室は二つある。まぁ、お主らならば一つで十分かもしれないがの」
そうそう、と彼女は続ける。
「キラとレイが望むなら、私の部屋でもいいぞ」
ギルバートは無条件で却下だが、と笑った。
「……私もご遠慮させていただきたいですね、それは。ギナ様に殺されたくありません」
さらにそう付け加える。
「まぁ、そのあたりのことはおいおいにな」
苦笑とともにミナはそう言う。
「いみがわかりません」
そんな彼女に向かってキラはこう告げる。
「今はわからなくていい。大きくなれば自然にわかることだ」
ミナはそう言うと、キラの体をそっと下ろした。
「残念だが私は仕事に戻る。少しゆっくりするがいい」
ミナはそう言いながら、またキラの髪をなでる。
「カナードをよこす。何かあれば、あれに言え」
そう告げると彼女はきびすを返した。そのままドアの方に移動しかけて動きを止める。
「そうだ。ギナはしばらく入れなくていいぞ」
視線だけ向けると、こう言ってきた。
「ギナさまですか?」
「あぁ。ちょっとおいたが過ぎたからな」
そのあたりもカナードが理解している、と続ける。
「わかりました」
ギルバートがそう言って頷く。
「ギナ様にはミナ様の指示だと告げればよいのですね?」
確認するようにそう問いかける。
「かまわぬ」
そのくらいしなければ引き下がらないだろう。彼女は低く笑い声を漏らすとそう言い返してきた。
「それでもだめならば、キラが『嫌いになる』とでも言えば確実だろうな」
諸刃の剣だが、と付け加えられてもキラには何故なのかがわからない。
「では、の」
ミナの方も説明するつもりはないのか。今度こそ部屋の外へと出て行く。
「荷物の整理をしようか」
ドアが閉まったところで、ギルバートがこう言ってくる。
「はい」
そう言っても、荷物はさほどない。着替えが数着と課題が入っているモバイルぐらいだ。
「レイ、こっちのへや、つかう?」
それを置いてこようとキラは彼に声をかける。
「そうですね。ギルはひとりでどうぞ。おそくなってもきをつかわないでしょう?」
「そうだね。少し寂しいが、妥協するしかないか」
どこまで本気で言っているのかはわからない。それでもキラとレイはうなずいてみせる。
そのまま、荷物を入れた鞄を手に自分達が使うと決めた部屋へ向かう。
「……ベッド、大きいね」
部屋の半分を占めるそれを見て、キラはこう呟く。
「でも、これならあとからギルがきてもだいじょうぶですね」
レイがそう言って笑った。
「そうだね」
部屋の隅にあった机にモバイルを置く。それ以外の荷物はロッカーにしまった。レイも同じように荷物をしまっていく。
一通り終わったところで部屋を出た。そうすれば、ちょうど部屋に入ってくるところだったカナードと視線が合う。
「ちょうどいい。たんけんに行くか?」
ふっと視線を和らげると、彼はそう言ってくる。それにキラはどう返事をしようかとレイへと視線を向けた。そうすれば、彼も複雑な表情を作っている。
「……ギルさんにことわってから」
とりあえず、キラはこう言ってみた。