小さな約束
28
アメノミハシラは軌道エレベーターの終点として作られたらしい。オーブにも同じような施設が完成している。しかし、地球連邦の横やりでその二つをつなぐ部分はまだ未着工なのだとか。
「もったいないね」
キラがそう呟いている。
「確かに、そうだね」
これが完成していれば、プラントへの農作物の輸入も簡単になるだろう。
もっとも、そうなればますますプラントの独立性は強くなる。それを地球連邦が認めてくれるかと言えば難しい。いや、現状では不可能だ。
もっとも、それはこどもには関係のない理屈ではある。
「何。近いうちに完成させるつもりだ」
そこに聞き覚えのある声が割り込んできた。
「ミナ様?」
はじかれたようにキラが声の方へと視線を向ける。次の瞬間、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お久しぶりです」
その表情のまま、キラはぺこりと頭を下げる。
「元気そうで何よりだ。レイもな」
珍しくも表情を和らげると彼女はキラの頭に手を置く。そして、そっと髪をすいた。
「とりあえず、お前たちの面倒はカナードに任せることになる。デュランダルは仕事があるからな」
彼ならば、アメノミハシラのことを知っている。どこならば案内していいかもわかっているから、と彼女は続けた。
「はい」
キラはそう言って頷く。
「では、移動しようか。無重力は大丈夫だな?」
「たぶん……」
「なんとかなるとおもいます」
二人は不安そうにそう言葉を返した。そういえば、無重力空間に連れ出したことはなかったな、と今更ながらに思う。
「二人も。手をつないだ方が安全だね」
そう言うとギルバートは手を差し出した。
「それならば、こちらの方が安全だな」
だが、二人がギルバートの手をつかむよりも先にミナがキラの体を抱き上げた。
「ミナさま!」
キラが焦ったように声を上げる。
「かまわん」
むしろおとなしくだっこされていろ、と彼女は笑いを漏らす。
「キラ。ミナ様の指示に従いなさい」
仕方がない、とレイの手を握りながらギルバートは告げる。
「……ほんとうに、いいの?」
キラが確認するようにミナを見上げた。どこか不安げなその表情に彼女は優しく頷いてみせる。
「では、移動するか」
言葉とともにミナは床を蹴った。ふわりと彼女の体が流れていく。ギルバートもレイとともにその後に続く。
やがて、重力ブロックへとたどり着いた。それでもミナはキラの体を下ろすことはない。
「ミナさま。ぼく、あるけます」
「気にするな」
楽しいから、と彼女は笑う。
「ここにいるこどもはカナードだけだが、あれは少々かわいげに欠ける」
育て方を間違えたか? とミナは真顔で告げた。
「お二人を見習っただけでは?」
ギルバートはそう言って笑う。
「そうかもしれんが……もう少しかわいげが欲しかったの」
ギナもかわいげがあるとは言い切れないし、とミナはため息をつく。
「守る存在である以上、仕方がないのかもしれぬがな」
だから、今更何も言わない。代わりにキラを愛でさせろ。そう言う彼女にギルバートは苦笑を返すしかできない。
「キラ。あきらめなさい」
その表情のままミナの腕の中にいるキラに声をかけるのが精一杯だった。