小さな約束
27
授業が始まる時間になっても教室にキラの姿はない。
「まだたいちょうがわるいのか?」
アスランは思わずこう呟く。
「あら、しりませんでしたの?」
即座にラクスが声をかけてくる。
「キラならとうぶん、がっこうにはきませんわ」
「……どういうことです?」
彼女が何を言っているのか。アスランはすぐに理解できなかった。
「なぜ、キラががっこうにこないのですか?」
自分が知らないことも彼女は知っているらしい。ならば、まずはその情報の言ったんでも引き出せれば十分だ。後は何とかなる。
「ミゲルのところにもキラかられんらくがきたそうですわ」
さらにラクスは衝撃的なセリフを口にしてくれた。
「ミゲルも?」
「えぇ。けさ、もらったそうですわ」
ラクスはまだ理解できる。彼女はキラにとって親友と言える存在だから、だ。
しかし、少なくともミゲルと自分は同レベルだと信じていた。それなのに、どうしてキラは自分には教えてくれなかったのだろうか。
「りゆうは、なんですか?」
ともかく、それを確認しよう。そう思って問いかける。
「デュランダルさまがおしごとのつごうでぷらんとをはなれられるので、どうこうしているそうですわ。さすがに一月ちかく、こどもたちだけでおいておくのはしんぱいだそうですから」
もうじき長期休暇だしかまわないだろう。そう判断したのではないか。
「ですから、キラのおうちにいってもむだですわよ」
もっとも、キラがいてもあってもらえるとは思えないが。ラクスはきっぱりとした口調で言い切った。
「どういういみですか?」
何故、キラが自分に会いたがらないと断言できるのか。
キラと自分は友だちなのに。
「キラがあなたのことをこわがっているからです」
だが、ラクスはこう言ってくる。
「なにをいっているのですか?」
何を根拠にそんなことを言うのか、と言外に問いかけた。
「キラからそうだんされていましたから。あなたにおいかけられるのがいやだけど、なんといえばりかいしてもらえるのか、と」
自分も何度もキラが『やめて』と言っている場面に行き会っているが、とラクスは続ける。
「あれは……」
確かに、キラが自分に向かって『やめて』と言っていたことはある。しかし、それは周囲の者達に気遣ってのことだったはずだ。
「ほかのものたちがいたから、ではないですか?」
自分が嫌われているはずがない。そう思いながらこう言い返す。
「いいえ。キラがこわがっているのはまちがいなくあなたです」
いくら話をしてもこちらの言いたいことを理解してくれない。それどころか曲解をしてくれている。
そんなアスランが怖いのだ。
ラクスはそう言った。
「どうして、あなたはキラのことばをすなおにうけとめないのですか?」
さらに彼女は詰め寄ってくる。
「キラはあなたにとってつごうのいいお人形ではありません」
ちゃんと自分の意志を漏っている人間です。当たり前と言える言葉を彼女は告げてきた。
「わかっています」
「いいえ、わかっていらっしゃいません」
わかっていれば、キラの言葉を自分の都合のいいように誤解するはずがない。ラクスはさらに言葉を重ねる。
「わかっていますか? キラにとってわたくし達の《いえ》はどうでもいいのです。だから、キラのことばにうそはない」
我慢できないほどいやだから『やめて』と言ったのだ、と告げられてもすぐに納得はできない。
「……ですが」
自分は十分にキラの気持ちを尊重していたつもりだ。だが、それでは足りなかったと言うことなのか。
「まだおわかりにならないのですね。では、あなたをキラにちかづけるわけにはいきません」
ため息とともにラクスはそう告げる。
「てっていてきにじゃまをさせていただきます」
それは間違いなく、宣戦布告だった。