小さな約束
24
体調が悪いから、と言う理由でキラは欠席だという。それだけのことなのに、教室内が暗く感じられる。
「つまらないな」
キラがいるから、学校が楽しいのだ。他の者達では意味がない。むしろ邪魔なだけだ。
「あいつらは、ぼくが《ザラ》でなければこえもかけてこないんだ」
どこに行ってもそれは変わらない。
しかし、キラは違う。
自分が《パトリック・ザラ》の子供でなくてもかまわない。ただの《アスラン》として見てくれている。
だから、そばにいて欲しい。
何度もそう言っている。それなのに、何故かキラは嬉しそうな表情を見せてくれない。ラクスには笑みを浮かべてみせるのに、だ。
いったい、何が違うのだろうか。
「あいつらのそんざいか?」
自分の後を追いかけて転入してきたお邪魔虫連中がキラに何かをしたのかもしれない。
「ちち上にいっても、なにもしてくださらないか」
彼のことだ。自分で何とかしろと言うに決まっている。
しかし、どうすればいいのか。
「はは上にそうだんすれば、何かいいアイディアをかんがえてくださるだろうか」
あるいは、キラに好かれる方法を、だ。
「キラにそばにいてほしいだけなのに」
どうして、みんな、邪魔をするのだろうか。
アスランにはそれがわからない。
それでも、何をすべきかは想像がついている。
「とりあえず、おじゃま虫はいじょ、かな?」
それからゆっくり、キラと話をすればいい。そうすれば、キラだって自分を選んでくれる。アスランはそう信じていた。
キラの口から小さな寝息がこぼれ落ちている。
「……つかれているんですね」
そんなキラの顔を覗き込みながらレイは小さな声でそう呟く。
「ラクスさまたちといっしょだったころは、こうじゃなかったのに」
むしろキラは楽しそうだった。そんなキラを見ているのが少しねたましく、だが、自分も嬉しく思えたのに、とレイはため息をつく。
「せめて、おなじとしだったら……」
もっと的確にキラのフォローができるのではないか。そうでなかったとしても、せめて学校に通える年齢であれば、と思ってしまう。
だが、こればかりは仕方がない。キラがいたから自分がこうしてここにいられるのだ。決して、その逆ではない。
「……いっそ、ぼくのうまれたとしについてもごまかしてくれればよかったのに」
自分の生まれについて、あの二人があれこれと、人には言えないことをしていたと聞いている。
それがどうしてなのか。それについても、しっかりと説明されていた。だから、文句はない。
しかし、それならばいっそ、と考えてはいけないのだろうか。
そうすれば、こんな風にキラを疲れさせることはなかった。
「ラクスさまたちがなにもしていないとは、おもっていないけど……」
彼らだって完璧ではない。
それどころか、キラとそう変わらない年齢の子供なのだ。親の方から圧力をかけられたらどうなるか。
「……カナードさんにでもそうだんしてみようかな」
そうすればきっと、ミナかギナに連絡が行くだろう。カナードは無理でも、あの二人ならばいいアイディアをくれるのではないか。
「まえにおあいしたとき、そういってくださったし」
彼らが嘘をつくはずがない。
「……やっぱり、あのとき、あのれんちゅうにしょうかいされたのがいけなかったんだ」
アスランほどではないが、他の三人もあれこれとアプローチをかけてきているらしい。そちらに関してはギルバートがうまく断っているそうだ。
しかし、そんな状況が続けば、間違いなく、アスランと同じ行動を取ってくるに決まっている。
そうなったとき、キラが学校に行きたがらなくなるのは目に見えていた。
「いっしょにいられるのはうれしいけど……それじゃだめなんだ」
自分達はまだまだ子供だから、この家だけの狭い世界に閉じこもるわけにはいかない。
でも、そうできたらどんなにか幸せだろうか。
「……もっとおおきければ、ふたりでどっかににげられるのに」
まぁ、ラウ達がいるからすぐ見つかるだろうが。
「こうにんででかければいいのか」
相談してみよう、と考える方向を変える。そうすれば、キラも元気になってくれるかもしれない。
「ラウかギルにはなしてみよう」
そうしようと呟く。その時だ。
「……レイ?」
起きているの? とキラが問いかけてくる。
「ううん。ねます」
寝ぼけているのか、舌っ足らずな声にそう言い返す。そして、レイはキラの隣に改めて体を横たえた。