小さな約束

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「ぼく、がっこうに行きたくない」
 不意にキラがこんなセリフを口にしてくれる。
「キラ?」
 先日までは楽しそうに登校していたのに、いったいどうしたのか。そう思いながらギルバートはキラと目線を合わせた。
「何があったのかな? 教えてくれるね」
 そのまま、静かな声で問いかける。
「おいかけられる……」
「追いかけられる?」
 オウム返しに聞き返せば、キラは小さく頷いて見せた。
「ラクスがいないときにね、あたらしくきたみんなにおいかけられるの」
 ゆっくりとしていられないのが辛い、と不安そうな表情を作る。
「それと、アスランがべたべたしてくるのが、ちょっとうっとうしいの」
 しかもそれを本人に言っても受け流されるだけだ。それもいやだ、とキラは小さな声で付け加えた。
「そうか」
 どうやら、予想以上に厄介な状況になっているらしい。早々に確認をすべきか。ギルバートはそう判断をする。
「本当はいけないのだろうが……そう言うことなら、今日は家にいなさい」
 毎回では困るがたまにはいいだろう。そう判断をしてこう言った。
「……ごめんなさい」
 泣きそうな表情でキラは言葉を綴る。
「かまわないよ。うかつに彼らと会わせた私にも責任があるしね」
 キラにしてみれば迷惑だったか。だが、あの席でなければカナード達と引き合わせることが難しかったことも事実だ。
「何とかできないか。考えておくよ」
 今日のところはレイと二人でのんびりとしなさい。再度こう言えば、キラは小さく頷いてみせる。そんな自分達の様子を見ていた執事に視線を向ければ、彼は小さく頷いて見せた。
 ならば大丈夫だろう。
「では、行ってくるからね」
「はい。がんばってきてください」
 キラの頭をなでると、ギルバートは玄関を出た。

「こまりましたわ」
 ラクスがそう言ってため息をつく。
「そういや、キラ、休みか」
 周囲を見回してからミゲルがそう言ってきた。
「さいきん、おばかがまたでてきましたから」
 キラにはショックだったらしい。そう続ければ彼は納得したというように頷く。
「それいじょうにもんだいなのは、アスラン・ザラですが」
 キラがいやがっているというのに、自分の気持ちを優先するなんて……とラクスは続ける。それがなければ、まだマシだっただろうに。
「そういうことですので、つきあっていただけますわね?」
 しめます、と言外に告げた。
「話してわかる人間ならいいけどな」
 ミゲルはため息とともにこう呟く。
「そうあってほしいです」
 ラクスはそう言った。
「でなければ、お父さまにあれこれとおねがいしなければいけなくなります」
 それはそれで厄介なことになるのではないか。それでも、キラを失うよりはマシだろう。
「デュランダルさまともお話しできるといいのですが」
 時間的に無理だろう、とラクスは考える。
「こうなるとわかっていれば、デュランダルさまのれんらく先をきいておいたのですが」
「キラにメールしてきいてみればいいだけのような」
 ミゲルがため息とともにそう言う。
「そうですわね」
 ギルバートの許可が出れば直接メールのやりとりができるかもしれない。それが一番確実な方法ではないか。
「そうしましょう」
 まずはキラに連絡を取らないと。そう考えると、ラクスはポーチの中から端末を取りだした。

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最遊釈厄伝