小さな約束
21
ようやく、厄介な挨拶が終わった。
「キラはどこにいるのでしょうか」
その事実にほっとしながら、ラクスは周囲を見回す。そうすれば、ミゲルが見覚えのない子供達に囲まれているのが確認できる。
「キラのそばにはレイしかいないということですわね」
厄介な、と思いながら改めてキラの姿を探す。
そうすれば、壁際に見知らぬ黒髪の少年と一緒にいる二人の姿が確認できる。しかも、そんな三人を遠巻きに大人達が囲んでいた。
その事実に、そっと胸をなで下ろす。
同時に、あの輪の中に加わらなければ、と意味もなく考えた。
その思いのままラクスは足を踏み出そうとする。
「ラクス」
しかし、そんな彼女の行動を止めるものがいた。
「何でしょうか、お父様」
しかし、相手が相手であるが故に文句も言えない。
「ミゲル君達をつれてキラ君のところに行ってきてくれるかな?」
キラに彼らを紹介してやってくれ。言外に彼はそう続ける。
「それが今回のもくてきなのですか?」
このわざとらしいパーティの、とラクスは聞き返す。
「彼らに泣きつかれてね」
すまない、と彼は言葉を口にした。
「しかたがありません。あとで、キラにあやまってくださいませ」
あんなとんでもない連中と顔を合わせなければならなくなった、と言外に言い返す。
先ほど、少し話をしただけでも、それは十分にわかった。はっきり言って、キラにふさわしいと思えない。
だからこそ、彼らにとってキラが必要なのだというのも事実なのだが。
「わかっているよ」
苦笑とともにシーゲルは頷いてみせる。
「少なくとも、キラ君がいやがれば二度とは合わせない。それだけは約束させたからね」
父がここまで言うのだ。信じてもかまわないのではないか。
「わかりました。ふほんいですが、今回だけはおとうさまのかおをたててさしあげます」
ラクスはため息とともにそう告げる。
「いざとなれば、げぼくのげぼくにしてしまえばよろしいのですわ」
そう結論づけると、彼女は行動を開始した。
「いや……それは違うと思うぞ」
シーゲルが困ったようにそう言う。だが、ラクスはそれを無視して歩き出す。そのまま、まっすぐにミゲル達の元へ近づいていった。
「ミゲル」
「ラクス? 何か?」
「キラのところへ行きません? きょうはまだ、あいさつしかしておりませんの」
自分は、と微笑む。
「そうですね。かれらもキラにしょうかいしてほしいと言っていますし」
勝手なことはできないからここに引き留めていたが、とミゲルは言い返して来る。それで状況がわかった。つまり、彼は彼なりにキラを守っていたと言うことだろう。
「まぁ、そうなのですか? でも、みなさま、ご自分ではこえをかけられませんのね」
その間に、しっかりとキラと仲良くなった人がいるが、とラクスは付け加える。その瞬間、四組の瞳がこちらをにらみつけてきた。
やはり、紹介したくない。
ラクスは心の底からそう思う。それでも、父の顔をつぶすわけにはいかない。
「……今回だけはきょうりょくしてさしあげます」
でも、とラクスは続ける。
「そうであるいじょう、かってにキラにちかづかないでくださいませね」
自分が把握していない場所で好きかってさせてたまるか。言外にそう続ける。
「そんな、おうぼうな!」
即座に反論が返された。
「ならば、ご自分でチャンスをつくられるべきでしたわね」
それもできないような人間はおとなしくこちらの言い分に従え。そう言うラクスに、彼らは複雑な視線を向けて来ていた。