小さな約束

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 大人達の思惑は子供には関係ない。
「……ラクス」
「ぜひとも、きてくださいね」
 困ったような表情のキラに、ラクスはそう言って微笑む。
「むずかしいことはないときいています。それに、わたくしのしたしいおともだちは、キラとミゲルぐらいですし」
 正確に言えば、友だちはキラで、ミゲルは下僕だが……と心の中だけで付け加えた。
「……ギルさんにきいてからでいい?」
 返事は、とキラは問いかけてくる。
「もちろんですわ」
 それは当然のことだ、とラクスは頷く。
「デュランダルさまとクルーゼさまにもしょうたいじょうがとどくはずです。レイもどうこうしていただいてかまいませんわ」
 レイはまだ未成年だから、直接、招待状を送るわけにはいかない。ただ、キラは自分の友だちだから別なのだ。彼女はそう言って笑う。
「……うん、わかった」
 それならば許可が出やすいのではないか。
「レイといっしょにいればいいんだよね」
 当日は、とキラは確認するように問いかけてきた。
「そうですわ。たぶん、ミゲルもいっしょにいるとはおもいますけど」
 父の話では厄介な者達が今回、キラを目的に参加するらしい。
 決して悪いことにはならないから、と父は言っていた。しかし、危険人物をキラに近づけるわけにはいかない。できる限りの対策を取っておくべきだろう。
「わかった。みんなにはそういっておくね」
 キラはそう言って頷く。
「おねがいしますわ」
 キラが『行きたい』と言ってくれれば、ギルバート達も前向きに考えてくれるだろう。
「でも、えらい人がたくさんくるんだよね?」
 大丈夫かな、とキラは首をかしげている。
「だいじょうぶですわ。キラはきちんとれいぎをみにつけていらっしゃいますから」
 どこに出ても恥ずかしくない。ラクスはそう言って笑う。
 この言葉に嘘はない。キラが身につけている所作はどのような場でも誰に文句はつけられないだろう。
「だから、わたくしもあんしんしておよびできるのですわ」
 間違いなく、ギルバート達がきちんと教育していたのだろう。
「でも、いやならばえんりょなくことわってくださいね」
「うん。ギルさんにはそういっておく」
 ラクスがそう言っていた、って。キラはそう言って微笑む。
「おねがいしますね」
 ラクスもそう言って微笑み返した。
「では、そのおはなしはおわったということで」
 今度の社会見学をどうするか。そちらの相談をしよう、とラクスは続けた。
「おうちの人のおしごとについて、だっけ?」
 どうしよう、とキラも首をかしげる。
「しられちゃいけないこともたくさんあるんだよね?」
「そうですが……あんないしてもいいところだけでもあんないしていただければいいのではありませんか?」
 要するに、仕事の内容には踏み込めなくても、仕事場所の見学は可能ではないか。そう言いたいのだ。
「そのくらいなら、いいのかな?」  キラは自分に言い聞かせるようにそう呟く。
「先生もそのくらいのことはごぞんじだとおもいますわ」
 要するに、自分達が親の仕事に興味を持てばいいのではないか。そして、自分の未来について考え始めればいい。そう考えているのだろう。
「……そうかな?」
「そうですわ」
 重ねてこう言えば、キラは小さく首を縦に振って見せた。
「でも、いろんなことをやってみたいな」
 自分は、とキラは呟く。
「がんばってくださいね」
 キラならば、どんな仕事についても精一杯の努力をするだろう。でも、どんな形にしろできればずっとそばにいて欲しい。そのためには自分も努力をしなければいけない、とラクスはわかっていた。

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最遊釈厄伝