小さな約束
17
子供達の世界に大人が口を出すのは無粋ではないか。シーゲルはそう考えている。
だが、そう考えないものも少なくないのだ。
「ラクス嬢の新しい友人のことだが……」
「身元はしっかりとしている。何も心配はいらない、と判断したが?」
声をかけてきたパトリックに、シーゲルはそう言い返す。
「そうではなくて、だな」
困ったように彼は言葉を濁した。そんな彼の態度は珍しいと言っていい。
「どうかしたのか?」
この問いかけにパトリックはさりげなく視線をそらす。
「……ラクス嬢が気に入っているのだろう?」
そして、自分の息子と同年代らしい、と聞いたのだが……と彼は続けた。
「ものすごくいい子だよ」
とりあえず、そう言ってパトリックの反応を待つ。
「家名を気にせずにうちの娘と付き合ってくれているからね。うちの娘も、それが気に入っているらしい」
そう続ければ、パトリックは本気で考え込むような表情を作った。
「……今度、我が家で親しい者達を集めたパーティを行う予定だが……」
「……息子を連れて行ってもかまわないかね?」
即座に彼は食らいついてくる。
「相手にも選択権があると理解してくれていればね」
苦笑とともにそう言い返す。
「友人とは無理矢理押しつけられるものではないだろう?」
さらにシーゲルはこう付け加えた。
「……わかっているつもりだよ」
苦笑とともにパトリックはそう言ってくる。
「ただ、なかなか出会いがなくてな」
それは理解できる、とシーゲルは頷く。そのまま、次の言葉を促した。
「近寄ってくるのは私の威を借りようとするものばかりらしくて、すっかりひねてしまったのだよ」
困ったものだ、とパトリックは続ける。
「仕方があるまい。お前は目立ちすぎる」
「人のことが言えるか?」
シーゲルの言葉に彼はすぐに反論してきた。
「私は極力敵を作らないようにしているからな」
話し合いで物事を解決し、相手の益も極力損ねない。そのための根回しも怠っていないつもりだ。
だが、パトリックは自分の考えを押し通すのに手段を選ばない。だから、味方もいるが、敵も作ってしまう。
その結果、利権に群がる者達は近づいてくるが、そうでないものは離れて行ってしまうのだろう。
「……だからと言って、今更な」
ため息とともにパトリックはそう言った。
「それでいいのではないか?」
いずれは、彼の息子自身の力で出会いを得られるようになるだろう。そのときに彼がどう選択するかにかかっているのではないか。
だが、まだ親の保護が必要な年齢ではそうも言えないだろう。
「ともかく、パーティの件は了承した」
近いうちに招待状を送る、とシーゲルは微笑む。
「奥方も一緒に来ればいい」
他には誰を呼ぶべきか。シーゲルはそう考える。
「……タッド達も呼ぶべきだろうな」
同じような年齢の子供達がいる以上、とそう呟く。
「騒がしくなりそうだ」
だが、楽しみでもある。子供は自分達にとって未来の象徴なのだ。その姿を目にできるだけでも喜ばしいと思うものも多い。
「まぁ、子供なら当然だな」
騒ぐのも子供の特権だ、とパトリックは頷く。
「もっとも、息子はそう思っておらんようだが」
どうして、ああも子供らしくないのか。そう言ってため息をつく彼は、間違いなく《父親》だった。