小さな約束
16
「ミゲル、レイ。おちゃ、あるよ」
ぐったりとした彼らにキラはそう声をかける。
「ラウさんのコーヒーもあります」
そう続ければ、ラウは小さく頷いて見せた。
「彼はなかなか筋がいい。月に一度は相手をしてあげられるようにしよう」
かすかな笑みとともに彼はそう告げる。
「だって。よかったね、ミゲル」
がんばってね、とキラは微笑む。
「そうですね。早くわたくしたちをまもれるようになってください」
そうでなければ、安心して次のステップに進めない。ラクスのこの言葉にキラは首をひねる。
「つぎのステップ?」
何、と聞き返す。
「どうせなら、みんなでおかいものとかにいきたいじゃないですか」
ミゲルが『使える』と判断されたならば許可が出るかもしれない。だから、とラクスは笑みを深める。
「がんばってくださいね、ミゲル」
自分達のために、と彼女は告げた。
「そうしたら、おたのしみもまっていますわ」
「……それはそれでこわいような気がしますけどね」
ミゲルはそう言うと深いため息をつく。
「でも、キラがいっしょならだいじょうぶか」
それだけは確実だよな、と彼は付け加えた。
「ミゲル? ラクス……なんのおはなし?」
キラはそう問いかける。
「おれもよくわからん」
即座にミゲルがこう言い返してきた。
「ラクスのあたまのなかみなんて、しらないほうがいいぞ」
とんでもないことになるぞ、と彼は真顔で言う。
「そうなの?」
「そうだよ」
彼がこう言って頷いたときだ。キラの膝に小さな手がそれられる。
「レイ、ふっかつした?」
視線を向ければ、彼は小さく頷いて見せた。
「おちゃ、さめちゃったね。いれなおす?」
「いいです」
そう言うと、彼は自分のカップに手を伸ばす。そのまま、中身を一息にあおった。
「……まぁ、きもちはわかるな」
ミゲルがそう言ってため息をつく。
「つぎには、もうすこしましになっているといいな」
自分が、と彼は付け加える。
「どりょくするしかない、です」
レイがすぐにそう言い返す。
「だよな」
苦笑とともにミゲルは頷く。
「ここでにげだしたら男がすたる」
さらに彼はこう付け加えた。
「そうですね」
思い切り、レイも同意している。
「……がいけんだけならば、女の子みたいですのにね」
お二人とも、とラクスが指摘した。それが二人にとって認めたくない事実らしいとキラにもわかる。
「おれはおとこです!」
あきらめているらしいミゲルは苦笑を浮かべているだけだが、レイはそうではない。果敢に反論をしている。
「ラクスにあそばれるだけなのに」
ミゲルのこのセリフにどう反応すべきか。キラは首をかしげながら考えていた。