小さな約束

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「いいかおりですわ」
 温室の中に足を踏み入れた瞬間、ラクスはこう呟く。
「においすみれのにおいだよ」
 それにキラはこう言い返す。
「あそこにうえてあるの。これからたくさんふえるって」
 楽しみだね、と付け加えた。
「それはすてきですわ。ふえたら、ひとかぶ、わたくしにくださいな」
「ギルさんがいいっていったらね」
 ラクスならば、たぶん大丈夫だろうとは思う。下手な管理をしてプラントの環境を壊すはずがないとわかっているからだ。
「もちろん、それでいいですわ」
 ラクスはそう言い返してくる。
「じゃ、あとでおはなししておく」
 キラはそう言うと、ラクスを案内するように温室の中へと進んだ。
「あれはなんのお花ですか?」
 真ん中に植えられている木を見てラクスはそう問いかけてきた。
「さくら」
 春になるときれいな花を咲かせるし、秋には紅葉する。夏や冬もそれぞれにきれいだと聞いた。
「ことしはむりだけど、らいねんにはお花がさくよ」
 そうしたら、一緒にお花見をしよう。キラはそう言って笑う。
「すてきですわ」
 それは楽しそうだ、とラクスも頷く。
「そのまえに、ミゲルにはつよくなっていただかないと」
 ふふふふふ、と彼女は笑った。
「ラウさんがレイといっしょにしごくって、いってたよね、そういえば……」
 大丈夫なのだろうか、とキラは首をかしげる。
「ミゲルはとってもじょうぶですわ。うんどうしんけいもかなりいいときいています。だいじょうぶでしょう」
 自分が歌が得意なように、とラクスは言ってきた。
「ラクスのうたはすごくすてきだよね。でも、ミゲルのうたもすきだよ、ぼく」
「そうなのですか? ミゲルもよろこびますわね」
 今度歌わせましょう。ラクスはそう言いきる。
「うん。たのしみにしているね」
 今日は無理そうだけど。そう言いながら、用意されてたテーブルセットへと腰を下ろす。そうすれば、庭にいるラウ達の姿が確認できた。
「じぶんの足でかえれますかしら」
 ラクスがミゲルの様子を見ながらこう呟く。
「わかんない」
 キラは素直にそう口にした。
「でも、レイはおきてるよ?」
 しごかれても、と続ける。
「なら、だいじょうぶですわね。ミゲルはいじっぱりですから」
 うふふふふ、とラクスは笑いを漏らす。
「でも、ミゲルってもう、おおきくなったらなにになりたいのかきめているんだ」
 すごい、とキラは言う。
「ぼくはなにをすればいいのか、わからないのに」
 ため息をつきながらそう言った。
「だいじょうぶですわ」
 ラクスがキラの頬にそっと触れてきながら言葉を綴る。
「すぐにみつかりましてよ」
 キラも、とラクスは言ってくれた。
「がっこうとはそのためにあるとおもいますわ」
 いろいろな体験をするために、と彼女は続ける。
「そうかな?」
「そうですわ」
 ゆっくりと見つければいいのだ。その言葉に、そうなのだろうかと思いながらキラは首をかしげた。
「ほかの方々はようねんがっこうをそつぎょうするときにきめられることがおおいそうですわ」
 そうなのか、とキラは納得する。
「ラクスはなんでもしっているんだね。すごい」
 そう口にすれば、ラクスは目を細めた。
「たまたまですわ」
 自分はそう言う立場にいただけだ、と彼女は言う。
「でも、キラにかんしんしてもらえるなら、がんばらないといけないですわね」
 ミゲルに負けてたまるか、と続ける。ラクスは意外と負けず嫌いだった、とキラは初めて知った。

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最遊釈厄伝