小さな約束
14
メールの内容にミナが目を細めている。
「ギナ」
そのまま彼女は自分の名を呼んだ。
「何か?」
「もう一度、お使いに行ってきておくれ。キラへの誕生日プレゼントの追加じゃ」
この言葉に、ギナは即座に反応を返す。そんな彼の反応にミナは楽しげに笑いを漏らす。
「……何を運べばいい?」
どうやらはかられたらしい。そう思いながらもギナは聞き返した。
「桜をな。他にも何種類か、苗を持っていけ」
正規ルートだと手続きが面倒だ。だから、こっそりとな、と彼女は続けた。
「わかった」
運ぶものがものだけに厄介だが、仕方があるまい。まぁ、何とかなるだろう。ギナはそう判断する。
「明日までに用意しておく。頼んだぞ」
そう言って彼女は笑みを深めた。
「……声をかけずに顔を見るぐらいはかまわぬだろうか」
苦労をするのだ。そのくらいの報酬をねだってもかまわないだろう。そう判断して問いかけてみる。
「だめだ」
だが、即座にミナはそう言い返してきた。
「私も直接会えないんだぞ。お前にだけ認められるか」
さらに付け加えられた言葉が信じられない。
「姉上?」
「まったく……私がいけるならばお前などに譲らないものを」
自分は養父に付き合って会議に参加しなければいけない。ミナは悔しげにそう言った。
「全く……たまにはお前が行けばよいものを」
「我を会議に参加させたら、後が大変なことになると思うが」
会議を壊すだけならば自分が行くが、とギナは続ける。
「だから、今回は私が出る。つぶされては困るからの」
つぶしてもよいのであれば自分がプラントに行っていた。彼女ははっきりとそう続けた。
「……まぁ、仕方がないか」
妥協するしかあるまい、とギナは呟く。あの子と顔を合わせる機会はまだまだあるのだし、と心の中だけで付け加えた。
「できるだけ早く、持っていてやれ」
入国さえしてしまえば、後は手はずが整っている。ミナはそう言った。
「……そうしよう」
ギナはため息とともに頷く。
「鉢植えの一つぐらいは追加してもかまわぬな?」
悪あがきと思いつつも、さらにこう問いかけた。
「そのくらいはかまわぬだろうが……何を持っていく気だ?」
食虫植物は喜ばないと思うぞ、とミナは言ってくる。
「すみれよ。あの人からもらったものが増えたからの」
「それならばかまわぬだろう。ラウかデュランダルにしっかりと言い含めておけば大切にしてくれるであろうからな」
ミナの確約がとれたのであれば大丈夫だろう。
「では、準備をしてくるか」
キラの顔を見るのは難しいが、植木鉢に多少の細工をするのはかまわないだろう。
「あぁ、そうだ」
「どうした?」
「あれも連れて行ってかまわぬかの?」
今から仕込んでおけば使い物になるのも早いだろう。そう付け加えながらミナの顔を見る。
「しっかりと監視するならばかまわぬよ。あれが使えるようになれば、私もあれこれ押しつけられるからな」
ミナはそう言って笑う。ならば大丈夫だろう。そう判断をしてギナは頷く。
「あれも喜ぶな」
苦笑とともにそう呟くと、座っていたソファーから腰を上げた。