小さな約束
13
キラの話を聞いて、どうすべきかとギルバートは悩んでいる。
「考えてみれば、来年になればキラだけではなくレイも幼年学校に進むのだしね。いい機会ではないかな?」
そんな彼に向かってラウはそう告げた。
「だがね、ラウ」
ギルバートは即座に何かを言い返そうとしてくる。
「来るのはラクス嬢とアイマン君の二人かな?」
それを無視して、ラウはキラに問いかけた。
「うん。ラクスとミゲルだよ」
だめ、とキラは首をかしげる。
「ミゲルはね、大きくなったらみんなをまもれる人になりたいんだって」
だから、ラウの話を聞きたいのだと言っていた。
キラの言葉に、何故自分の休暇の予定を聞いてきたのか、ラウは納得する。
「そういうことならば、時間を空けておこう」
言葉とともにギルバートに視線を移動した。
「そうだね。いつまでもここをとじておくことはできないか」
深いため息とともにギルバートは言葉を口にする。
「ラクス様ならば心配はいらないだろうしね。あの方のお眼鏡にかなった少年もそうだろう」
とりあえず、彼らで様子を見てみよう。メイド達も喜ぶだろうし、と彼は続ける。
「とはいうものの、少し部屋を整えないとね。どう考えてもリビングは子供向きではない」
かといって、最初から私室に入ってもらうのは失礼になるだろう。
「……クライン様の屋敷のように温室でも作るか?」
そうすれば、レイの鍛錬にも使えるのではないか。ギルバートはそう言う。
「おんしつ?」
キラがものすごい勢いでその単語に食いついた。
「温室が欲しいのかな?」
「お花、うえたいの」
庭では許可が出なくても植えられない花でも、温室ならば植えられる。ラクスにそう聞いた、とキラは付け加える。
「確かに。でも、何を植えたいんだね?」
この言葉に、キラは首をかしげた。
「んっとね……ピンクのゆき?」
ピンクの雪とは何なのだろうか。誰もがそう考える。
おそらく、キラの記憶にあるものなのだろう。だが、すぐには思い出せない。
少なくとも、プラントに来てからのものではないはずだ。
そうなればメンデルでしかない。
いったいどのような花が植えられていただろうか。
そう考えたときだ。
脳裏にある答えが浮かぶ。
「桜か?」
ラウはそう呟く。
「あぁ。そうかもしれないね」
ギルバートもそう言って頷く。
「それならば、庭でも大丈夫だよ。植えてあげよう」
他にもかわいらしい花を何種類か用意してあげよう、と彼は続けた。
「はい」
キラが嬉しそうに微笑んだ。
「レイも希望があるなら言いなさい」
この言葉に彼は小さく首をかしげる。だが、すぐに首を横に振った
「ないの?」
キラが不思議そうに問いかける。
「きらの、すきなのうえて?」
それが嬉しい、と彼は淡く微笑む。
「レイ……」
「ならば、後は私が任されようね」
できたら、ラクスを招待するといい。ギルバートはそう言う。
「キラの誕生日までにはできるように手配してあげよう」
さらに彼がそう付け加えれば、キラが彼に抱きつく。それが忌々しいと思ってしまうラウだった。