小さな約束

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 思わず、通報してやろうか。
 目の前の人物を見た瞬間、ラウは心の中でそう呟く。
「今回は、正攻法でやってきたぞ」
 それに、キラはおらぬのだろう? と彼は笑いながら言う。
「それに、キラとレイに渡したいものもあったからの」
 もうじき誕生日であろう、と言われては仕方がない。
「どうぞ」
 体の位置をずらすと、ラウは彼を中へと招き入れる。
「失礼する」
 素早く彼は室内へと移動した。それを確認してラウはドアを閉める。
「……それが《レイ》か」
 部屋の隅で本を読んでいた子供の姿を見つけて、彼はそう問いかけてきた。
「そうです」
「そうか。我はギナよ。覚えておくがよい」
 たまに来るだろうから、と言われてラウは思わずこめかみを押さえてしまう。
「それよりも、早々に用事を住ませんとな。いつ、キラが帰ってくるかわからん」
 キラに顔を見せてはいけないと約束させられたからな、とギナはため息をつく。
 誰に、と聞かなくても想像がついた。と言うより、目の前の相手にそんなことを言える人間は一人しかいない。
「まずは、これを。お前たちの判断であの子に見せるがいい」
 ラウの内心を無視して、ギナは胸元から慎重にあるものを取り出した。そして、テーブルの上に置く。
「……写真、ですか?」
「あの子らが生まれたときのものだ」
 母に抱かれた二人がそこで微笑んでいる。この写真を撮ったのは二人の父だ。一緒に写ればいいのに、とムウが彼に言ったことも覚えている。
「これしか見つからなくての」
 プリントされたものは、とギナは言う。
「他のものはこちらだな。お主らのものもしっかりとあるぞ」
 いろいろとな、と付け加えられて無意識のうちにため息が出る。彼のことだ。間違いなく見られたらキラに笑われそうなものを厳選してくれただろう。
 同時に、キラにとってはこれは救いになるかもしれないと言うこともわかっている。
 後で確認にしなければ、とラウは心の中だけで呟く。
「後は、これらかの。あぁ、それの分もある故、適当に分けるがよい」
 言葉とともに彼はどこからともなくA4サイズの袋を取り出した。
「中身は?」
「我が作った玩具よ。あぁ、心配するな。殺傷能力はない故」
 せいぜい、相手をしびれさせる程度だ。彼はそう続けた。
「そうですか」
 これも中を確認しないといけないな、とラウは判断する。
「後は、あの娘の今の様子が収められたディスクか」
 それはラウが持っていればいい、とギナは言う。
「……カガリですか?」
「手に負えぬぞ、あの娘は」
 小さな笑いとともにギナは言葉を口にする。
「なかなかに楽しませてくれるがな」
 おかげで、キラやラウ達の不在を紛らわすことができるぞ、と彼は続けた。
「どのみち、馬鹿とゴミを排除しなければお前たちは返ってこられぬのだ。せいぜい、この地で足場を固めるがよい。我らにできることは手を貸す故」
 内密に、と彼は笑う。
「それはありがたいですね」
 これに関しては素直に受け入れておこう。そもそも、それが第一の目的なのだ。
「代わりに、キラの写真を送れ。姉上が楽しみにしておいでだ」
 その程度ならばかまわないだろう。
「アドレスは?」
「いつものあれでかまわん」
 ならば問題はない。
「わかりました」
 そう告げるラウに、ギナは満足そうに頷く。
「では、時間までそれで遊ぶか」
 だが、この言葉には苦笑を浮かべるしかない。
「あきらめろ、レイ」
 そう言うのが精一杯だった。

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最遊釈厄伝