小さな約束
10
ギルバートのうちも大きいとは思っていた。しかし、目の前にある建物はさらに大きい。
「……らくすのおうち?」
ここが? と思わずキラは問いかけてしまった。
「そうですわ」
単に古いだけですわ、とラクスは言い返して来る。
「まいごになりそう」
彼女の言葉に、キラはこんな感想を抱く。
「だいじょうぶです。わたくしがいっしょにいますから」
そんなキラにラクスはそう言って微笑む。
「しんぱいなら、てをつなぎましょうか?」
「うん」
それならば安心だね、とキラは頷いて見せた。
「こちらですわ」
ラクスはそう言うと、キラの手を引いて歩き出す。
「このさきにおんしつがありますの。そこにおちゃのよういがしてあるはずですわ」
とてもきれいですのよ、と彼女は微笑む。
「ぜひとも、キラにみせてあげたいとおもいましたの」
自慢だから、とラクスは続けた。
「おはなもたくさんさいていますわ」
「そうなの?」
「えぇ」
そんな会話を交わしながら、二人は奥へと進んでいく。その光景を二人の保護者達が微笑ましそうに見つめていた――少なくとも二人が視界の中にいた間は、だが。
二人が温室に入ったのを確認したときだ。
「こちらで、お茶でもどうかな?」
さすがにアルコールはまずいだろう、とシーゲルは笑う。
「そうですね」
そんなことをすれば、後でラウに何を言われるかわからない。心の中でそう呟きながらギルバートは言葉を返す。
「私としては、ラクスとあのこの仲は邪魔したくないのだがね」
微苦笑とともに付け加えられた言葉は、ある意味予想していたものだ。
「……あの子の両親が誰か、それをお知りになりたいと?」
ため息とともにそう問いかける。
「否定はしないよ」
だが、それは子供達に聞かせることではないだろう。シーゲルはさらにそう続ける。
「確かに」
聞かれても困らない程度には情報操作をしているが。だが、できればあまりあれこれと操作しない方がいいだろうとは考えている。あまりあれこれとやり過ぎればどこかにほころびが出かねない。
さて、シーゲルはどこまで確認しようとしているのか。
ソファーへと案内される間にもそんなことを考えていた。
「しかし、君もまだ若いだろうに……」
「あの子達のご両親にはよくしていただきましたし……あの子が生まれたときから知っていますからね」
それに、とギルバートは続ける。
「今は、あの子達をオーブに帰すわけにはいかない、と判断しました」
あちらの親族も『その方がいいだろう』とのことだった、と口にする。
「あの子達のご両親は、メンデルの研究所の職員でしたので」
それは嘘ではない。もちろん、真実でもないが。
「そうか……そう言うことならば、かまわないか」
だが、シーゲルはそれまでの説明であっさりと納得したようだ。
「シーゲル様?」
「あの子の背後にブルーコスモスがいないのであれば、それで十分だよ。後はラクスの判断に任せている」
あの子も普通の子ではないから、と苦笑とともに彼は続ける。
「そうですか。キラもラクス様が好きなようですからね」
彼女がキラを気に入ってくれたのならばそれでいい。ギルバートはそう言って微笑む。
「あの子の世界を少しでも広げてあげたいですからね」
そう言うとギルバートは運ばれてきたコーヒーに手を伸ばした。