小さな約束
09
「らくすのおうちにあそびにいってもいい?」
返ってくるギルバートをエントランスで待ち構えて、キラはそう問いかけた。
「ラクス・クラインのお家に、かな?」
即座に彼は確認するように聞き返してくる。それにキラは小さく頷いてみせた。
「あそびにきてって、らくすが」
だめ? とキラは首をかしげる。
「だめではないよ。ただ、いろいろと都合があるからね。ちょっと待っていてくれるかな?」
キラを一人で行かせるわけにはいかないから、とギルバートは続けた。
「だめじゃないなら、いいです」
キラはそう言って微笑み返す。
「ぼく、おともだちのうちにあそびにいくの、はじめて」
さらに続けた言葉に、ギルバートも笑みを浮かべた。
「学校に行ってよかったようだね」
「たのしい?」
自分に確認するように、キラは語尾を上げる。
「移動してから考えようね」
苦笑とともに彼は軽々とキラの体を抱き上げた。
「レイも待っていると思うよ」
さらに彼は付け加える。
「れいはおやすみちゅうだよ」
それにキラはこう言い返す。
「たぶん、起きているよ」
苦笑とともにギルバートは断言した。
「あの子は、基本的にキラがそばにいないと眠れないからね」
だから、きっと起きているよ。彼はそう続ける。
「そうなの?」
「見てみればわかるよ」
そのまま歩き出すギルバートにキラはそう言うものなのかと思いながら素顔に抱えられていた。
部屋についた瞬間、ギルバートに向かって枕が投げつけけられたのはどうしてなのか。キラにはわからなかった。
「……クラインか」
ギルバートから話を聞いて、ラウはそう呟く。
「彼は穏健派だからね。キラにとってマイナスにはならないと思うが」
それでも、完全に『安全だ』とは言えないだろう。
「だが、あの子個人のためにも味方は多い方がいいからね」
クラインを味方につけられるならば、それでいい。そうでなかったとしても、キラにはいい経験になるだろう。
「では、その方向で進めるよ」
ただ、問題は……とギルバートは続ける。
「レイがおとなしくしているかどうかだね」
困ったものだ、と彼はため息をつく。
「確かに。ちょっとあれは問題だね」
悪くはないのだが、とラウも頷いて見せた。
「少し教育を間違えたか」
ため息とともにギルバートはそう呟く。
「あの子の場合、刷り込みも入っているからね。でも、ちょっと行き過ぎだ」
あれでは、いずれキラを閉じ込めかねない。それではお互いのためにならないだろう。
「それをただすためにも、キラに友だちは必要だろうね」
レイには少しキラ離れをさせよう。ラウはそう言いきった。
「賛成するよ」
ギルバートもうなずき返す。
「まずは、キラの幸せについてレイにしっかりとたたき込んでおこうかね」
キラが学校に行っている間にも、と彼は続ける。
「明日は時間がある。その間にじっくりと話をしよう、あれと」
それはそれで楽しそうだ。ラウはそう言って笑った。