小さな約束

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  07  



 夕食の時間、キラはいつものように今日あったことを報告してくれた。
 しかし、だ。
「ラクス?」
 その名前に引っかかりを覚えて聞き返す。
「ぼくより、ひとつうえだって」
 桃色の髪がきれいだった。キラはそう言って微笑む。
「それにアイマンか」
 意味ありげにギルバートは呟く。
「ぎるさん?」
「あぁ。父親かな? 同じ家名の人間を知っているだけだ」
 なかなかに好人物だよ、と彼は続けた。
「おともだちになっても、だいじょうぶ?」
 それにキラはこう問いかけてきた。
「ぎるさんとらうさんのめいわくにならない?」
 さらにこう続けられる。
「キラ?」
 何を言っているのか、とラウが逆に聞き返した。それは当然だろう、とギルバートも思う。
「だって……」
 どう言えばいいのだろうか、と悩むようにキラは視線を彷徨わせている。
「誰かに何かを言われたのかな?」
 ギルバートは低い声で言葉を綴った。それは疑問ではなく確認だ。
「……ぎるさん……」
 困ったように眉毛を下げるキラの表情を見てそれが真実なのだろうとわかった。
「安心しなさい。この男はその程度でつぶれるような人間ではないから」
 ラウが嫌みなほどさわやかな笑顔でこう言ってくる。
「ぎるははらぐろだって」
 さらに同じような表情でレイがこう言ってくれた。
「……ラウ、君はレイに何を教えているのかな?」
 キラがそんな言葉を使うとは思えない。と言うことは、教えたのは彼だと言うことになる。
「本当のことだけだが?」
 しれっとした口調でラウは言い返して来た。
「どちらにしろ、子供の交友関係で揺らぐ程度の立場ではない。安心して好きな相手と友だちになりなさい」
 彼を無視して、ギルバートはキラにそう言う。
「もちろん、気に入らない人間は無視していいからね」
 さらに彼はこう付け加える。
「……ほんとうにいいの?」
 キラがギルバートの顔をまっすぐに見つめてきた。
「本当だよ」
 だから、好きにしていいのだ。そう続ける。
「うん」
 ほっとしたようにキラが微笑んだ。
「ぎるさん」
「何かな?」
「だいいちせだいって、だめなの?」
 何か、そう言われていじめられるんだけど。キラはそう続ける。
「そんなことはないよ。第一世代だろうと第二世代だろうと、重要なのは努力しているかどうかだからね」
 キラはたくさん努力している。だから、何も恥じることはない。そう続けると同時に困ったことだと心の中だけで呟く。
 どうしてこんな馬鹿な差別が出てくるのか。
 それを何とかしなければ、プラントの未来はないと言っていいのだ。
「相手の親が出てくるならばそれでかまわない。私とラウとで徹底的に叩きつぶしてあげよう」
「そうだよ、キラ。任せておきなさい」
 ふっと笑うラウが何を考えているのか、まだ小さいキラにはわからないだろう。だが、それでいい、とギルバートは考えていた。

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最遊釈厄伝