小さな約束

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  06  



 学校に通うようになって驚いたのは騒がしさかもしれない。
 デュランダル邸には自分とレイ以外に子供はいない。だからだろうか、二人が多少はしゃいでも騒々しいと感じたことはなかった。
 だが、学校は違う。
 いつでも誰かが声を出している。静かな時間というのがないと言っていい。
 もっとも、それ自体は我慢できた。
 問題なのは声だけではなくちょっかいを出してくる人間がいると言うことだ。
「や、めて……」
 キラは泣き出しそうになるのを必死にこらえながらそう言った。
「やだよ」
 しかし、相手はこう言ってさらにキラを殴ろうとしてくる。
 こうなったら、おとなしく殴られるべきだろうか。しかし、そうすると、後でラウに怒られるような気もする。
 どちらがよりいやか。そう考えれば、答えは後者だとしか出てこない。
 だから避けよう。
 そう判断したときにはもう、目前まで相手の拳は来ていた。だが、この距離からでもキラは十分余裕を持ってよけることができる。
「……なっ!」
 自分の実力に自信を持っていたのか。キラが避けたことが信じられないという表情を作っている。
「おまえ、なんでさけるんだ!」
 だが、すぐにそれは怒りに変わったらしい。こう怒鳴って来る。
「いたいから」
 キラは即座にそう言い返す。
「いたいの、やだもん」
 殴られたらいたいではないか。それに、跡が残ったらラウ達が心配する。
「だいいちせだいのくせに、なまいきだぞ!」
 大きな瞳で相手を見つめていれば、いきなりこんなセリフを投げつけられた。
「どうして?」
 意味がわからないとキラは首をかしげる。
「だいいちせだいだとどうしてだめなの?」
 ギルバートもムウもそんなことは言わない。と言うことは、彼らも知らないことなのではないか。
「……それは……」
 すぐに言い返すべき言葉を見つけられないのか。相手は言葉に詰まっている。
「あなたのおとうさまやおかあさまもだいいちせだいでしょう? だめなの?」
 それはご両親を馬鹿にしていることにはならないのか。キラはさらにそう問いかけた。  キラにしてみれば、ただ、疑問を口にしただけだった。
「おまえ、なまいきなんだよ!」
 だが、それがまた火に油を注ぐことになってしまったらしい。
 言葉とともに拳が振り上げられる。しかし、それが振り下ろされることはなかった。
「そこまでにしておけ」
 静かな声が周囲に響く。
「おともだちになりたいのでしたら、ぎゃくこうかですわよ」
 さらにもう一つの声も耳に届いた。
 いったい、誰だろう。
 そう考えながら、キラは声がした方に視線を向ける。そこにはまるで一対の人形のような二人がいた。いや、一対というのとは少し違う。むしろ、姫君と騎士だろうか。
「わたくし、そのかたとおともだちになりたいのです。ばしょをゆずっていただけまして?」
 桃色の髪の少女が微笑みとともにこう告げる。
「だけど……」
「わたくしがそうしたいのですわ」
 彼女がこう言えば、目の前の相手は渋々と言った様子で離れていく。
「はじめまして。わたくしはラクスですわ。あなはた?」
「……きら、です」
 ギルバートやラウ、それにレイもきらきらしている。でも、彼女はもっときらきらだ。そう思いながらキラは言葉を返す。
「やっぱりかわいいかたですわ。もってかえってはだめかしら?」
 しかし、このセリフは何なのだろうか。
「だめですよ。キラにもかえるうちがあるわけですし」
 苦笑とともにもう一人がこう言ってくる。
「いじわるですわね、ミゲル・アイマン」
「あなたのストッパーやくをめいじられていますから」
 二人のこの会話の意味がわからずに、キラは首をかしげて見せた。

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最遊釈厄伝