小さな約束
05
その日、キラは四才になった。
「そろそろ学校に通わないとね」
ギルバートが不意にそう言ってくる。
「がっこう、ですか?」
学校という言葉は知っていた。しかし、それが自分に関係あることだとは思えなかったのだ。
「そうだよ。いつまでも家の中だけで過ごす訳にはいかないからね」
だから、キラも学校に行ってみよう。彼はそう言って微笑む。
「らうしゃんも、いったの?」
視線を彼に移すとこう問いかける。
「行った。そして、今も別の学校に通っている」
そう言って彼は微笑んだ。
「大丈夫だ。いやならば行かなくてもいい。そのときには私がいろいろと教えてあげるから」
だから、まずはお試しで通っていなさい。彼はそう続ける。
「学校に行けば友だちができるかもしれない」
ラウの言葉に、キラは首をかしげた。
「ともだちって、なぁに?」
そして、こう問いかける。それにラウは珍しくも困ったような表情を作った。
「友だちというのは……」
「一緒に遊んだり勉強したりしてくれる仲のいい人のことだよ。家族以外のね」
自分やラウ、それにレイは家族だから《友だち》ではない。彼は教えてくれた。
「……よく、わからない」
そんな存在が本当にいるのだろうか。
「わからなくても、すぐにわかるようになるよ」
学校に行ってみればね、とギルバートは笑う。
「どうしてもだめならば、ラウが言っていたようにそのときに考えよう」
こう言われて、キラは小さく首を縦に振って見せた。
「いい子だ」
ギナが優しく頭をなでてくれる。それが嬉しくてキラは目を細めた。
「がっこ、いく?」
不意に、レイの小さな手がキラの服を握りしめてくる。
「れーもがっこ」
一緒に行くと言っているのだろうか。
「お前はまだ無理だ。四才にならなければ学校には行けない」
ラウが彼と視線を合わせながら言葉を口にする。
すぐには意味が飲み込めなかったのだろか。レイは首をかしげた。だが、すぐに泣きそうな表情になる。
「やーっ! いっしょ、いくのぉ!!」
そう思った次の瞬間、彼はこう言って泣き出す。
「……れい……」
どうしたらいいのだろうか、とキラはギルバートとラウを交互に見つめる。
「君はまだ学校に行ける年齢ではない。これは仕方がないことだよ。あきらめなさい」
ギルバートはため息とともにレイの頭に手を置く。
「キラも一人で我慢していたからね。君も我慢しなさい」
大丈夫。すぐだよ、とギルバートは笑った。
「君がいい子でいれば、キラはちゃんとほめてくれるしね」
その言葉に、今度はキラの方が首をかしげる。
「ぼくがほめると、れいはうれし?」
この言葉に、レイはまだ涙をまつげにまとわせながら頷いて見せた。
「キラはほめてくれそうだね」
この言葉で、レイはとりあえず納得したらしい。
「これからは、もっといろいろな経験をしないとね」
学校に行く前にみんなでちょっとお出かけしようか。その言葉にレイの涙が止まった。
この日、二人の世界は少しだけ外に向けて扉を開いた。